ビジネスでライブコマースを上手く活用している企業の話を聞いて、興味を持っているという方は多いと思います。ライブコマースに挑戦すればビジネスが盛り上がりそうだと思いますが、現実的な目的やゴールを決めてから始めると、さらに良い結果が期待できるかもしれません。今回は、日本ライブコマース協会、日本グミ協会の武者慶佑さんに、ライブコマースをどのように活用していくとよいか話を伺いました。

日本ライブコマース協会日本・日本グミ協会で活動される武者慶佑さん

ライブコマースを実施する前にやること

配信者と視聴者が、リアルタイムでコミュニケーションをとりながら商品を販売するライブコマース。ライブ配信を活用し、ネットショッピングとは違った購買体験ができる買い物方法の一つです。コスメやアパレル業界など導入する企業は増えていますが、ライブコマースを企業が取り入れる際にまず何を考えたらよいのでしょうか?

武者さん:『ライブコマースを始めるときは、手探りで「とりあえずライブコマースをやってみよう」というのではなく、まずは、現実的なマーケティング目標を設定しゴールに向かっていく筋道を立てることです。』

ライブコマースを行うとき、商品の選定やライブコマースのテーマ、台本作りから着手してしまいがちですが、まずやるべきことは、ライブコマースを行う目的や、どんなお客様とコミュニケーションを取りたいのかターゲットを決めることが大切ということですね。では、具体的に何をどのように決めていったらよいのでしょうか?戦略や筋道の立て方などを紹介します。

日本ライブコマース協会の武者慶佑さんが考えるライブコマースとは?

武者慶佑さん著書『ライブコマースの教科書』よりAmazon本:https://www.amazon.co.jp/dp/4798172871

今回取材したのは、日本ライブコマース協会の発足を行っている武者慶佑さん。武者さんは2013年よりコンビニグミを盛り上げるために発足した日本グミ協会の立ち上げも行い、20万人のフォロワー、2.5万人の会員を抱えています。(2023年2月取材時点)そのような中でライブコマースとコミュニティの関係に注目し、『成果を上げるライブコマースの教科書』の執筆を行い、日本のライブコマースを2020年から研究されています。そんな武者さんの考えるライブコマースとは、どのようなものなのでしょうか?

武者さん:『ライブコマースは、顧客との接点を作る手段であり、コアな顧客との関係づくりの場です。商品を売るという目的だけでなく、顧客とのコミュニケーションを高めていく戦略を考えてからライブコマースを活用していくといいですね。』

外出しづらい時期に家にいながらショッピングができる方法として、ライブコマースを取り入れる企業は増えました。ライブコマースに挑戦したいという気持ちが先に立ち、『まずやってみよう!』と始めてしまうと、うまくいかないことが多く、結局続けられないというケースもあります。

武者さん:『ライブコマースは、売り上げを上げるための「商品を爆発的に売ることができる魔法の方法」ではなく、「顧客と深く接触できる方法のひとつ」であり、ライブエンゲージメントを高めコアなファンを作るための手段だと思います。』

ライブエンゲージメントとは、ライブ配信を通じて作り上げる顧客との接点のこと。ライブ配信を行いながら企業が顧客との接点を密に作れる場所があれば、コミュニケーションを取りながらコミュニティを作り上げることができます。ライブエンゲージメントを上げるには戦略が必要、ということですね。

顧客との接点を作りあげライブエンゲージメントを高めるためには、どんな人に顧客になってほしいかターゲットを決め、決めたターゲットに合わせた道筋を立てて発信をしていく必要があります。

誰に発信する?ライブコマースの戦略とは

ライブコマースを活用し、商品のコアなファンを作るためにまずは、誰をターゲットにするかを決めましょう。ライブコマースをどの層の顧客に向かって行うのかを明確にします。企業と顧客の関係を段階的に分け、どの顧客層に向けて発信するのがベストなのかを分析していきます。

例えば、

・新規顧客、見込み客向け(商品の認知度を上げる、商品に興味を持ってもらいブランドの認知力を高める)

・リピーター向け(商品の魅力を伝える、商品・企業のファンを作る)

・コアファン向け(ファンのコミュニティを作る、コミュニケーションの場を作る)

以上のように、目標として決めた顧客層に向けて、ライブコマースの企画やSNSでの告知を一貫した内容で発信をしていくことが大切です。武者さんは、『ライブコマースは、新規顧客とコアファンの間の顧客層とのコミュニケーションツールとして活用できる』とお話しされています。

新規顧客を得たいのならば、まずはSNSや広告を活用して商品について多くの人に知ってもらう。ある程度商品について興味のある顧客が集まったら、コアなファンになってもらえるようコミュニケーションツールとしてライブコマースを活用していくといった、段階ごとの戦略を立てていくといいでしょう。

ただし、ライブコマースの実施だけでは、コアファンを作り上げるのは難しいでしょう。ライブコマース実施までにどれだけファンを作れるか、ライブコマース開催までに、商品に興味を持ってもらえるようにするためには、SNSを活用して顧客との接点を作っていく必要があります。

ライブコマースとSNSを長く続けるコツ

ライブコマースを配信する前には、決めた顧客層に向かって一貫した情報発信をしていくことが大切です。SNSでの情報発信を定期的に行い、商品に興味を持ってくれそうな顧客を増やせるよう継続した運用が必要です。

SNS運用は、コツコツ継続することが大切と言われますが、始めはなかなか上手くいきません。発信しても集客につながらない、発信することだけが目的になり時間ばかりがかかってしまうなど、続けることが困難になる方もいるのではないでしょうか。また、ライブコマースを定期的に行うことについても、断念してしまうことはないのでしょうか?

武者さんに伺ってみると、そもそも長く続けられるような設計をすることが大事とのこと。継続的にSNSを運用するためには、まるで息を吐くようにスムーズに負担の少ない運用方法でないとうまくいきません。予算や人員が少ないのに SNS に時間をかけすぎたり、人気インフルエンサーを継続的に呼びコストがあがりすぎてしまうと、その後の運用が続かなくなってしまいます。

企業や商品を広く認知してもらうにはインフルエンサーの力を借りてライブコマースを配信してもらうのも1つの方法ですが、ただ頼めばいいというものではありません。ターゲットを明確にし、どんな内容をどのような配信者が行うかの細かい戦略を立てたうえで、インフルエンサーに依頼するのか、かけられる時間はどのくらいなのかを分析します。長く続けられるような設計をしてからライブコマースという手段を取るというのが、企業のSNS運用とライブコマースが成功しやすいポイントというわけですね。

現状を分析し、現実的な売り上げ目標を設定し、予算・人員などの工数を掛けずに運用していけるような設計を作ることが大切。ここでいう工数とは、SNS運用やライブコマースにおけるコストや人員のこと。現在の状況を分析し、現実的な費用感やリソースがわかってくれば『いまできること』が見えてくるはず。すぐに効果が出ないかもしれませんが、発信を続けていくことが大切です。

日本グミ協会としての取り組み

ここまでライブコマース実施前の目標設定、ターゲット設定、それに伴う一貫した発信が大切だということをお伝えしました。では具体的にはどのように運用していくとよいのか、日本グミ協会で活動する武者さんの取り組みを事例に紹介します。

まず、日本グミ協会とは、コンビニグミのおいしさや認知度を底上げしようとグミファンが集まるコミュニティです。日本のお菓子メーカーが複数賛同して一緒に取り組みを行い、2017年からは9月3日を「グミの日」として盛り上げるべく、メーカーの垣根を超えた共同キャンペーンやイベントを実施しています。武者さんは名誉会長として、SNSやイベントの運営を行っています。

9月3日のグミの日をブランディングするために、グミを販売する企業とファンが協力してグミ市場を盛り上げ、さらにグミを通じて活発なコミュ二ケーションを作り上げていこうという活動をしています。日本グミ協会として武者さんが行っている、SNSやライブ配信戦略はどのようなものでしょうか?

日本グミ協会がグミについて発信する理由

日本グミ協会を知ったとき私が気になったのは、なぜ発信する対象をグミにしたのかということ。チョコレートやラムネなど他のお菓子ではなく、グミを選んだ理由を伺いました。武者さん本人にグミが好きという気持ちもありますが、現実的にグミをテーマにSNSやイベントができるかどうかを分析したそうです。

  • 新商品が多い
  • 一個あたり100円前後とコストをあまりかけずにレビューできる
  • パッケージやグミ自体がかわいいので写真映えする

大前提として、テーマについて熱量を持って語れる人がいないと続けられません。さらに、レビューする商品自体が高価なものであったとしたら、毎回コストがかかりすぎてしまいます。頻繁に出る新商品を買って毎回レビューするというコストをかけられるか?という点に注目し、グミというテーマを制定したそうです。その結果、日本グミ協会には全国各地のグミファンが集まり、日本グミ協会会員としてグミ愛を語るコミュニティとなっています。

日本グミ協会の SNS戦略

日本グミ協会Instagramより

では、日本グミ協会はどのようにグミ業界を盛り上げていこうとしたのでしょうか?

まずは、多くの人に『日本グミ協会の活動』を知ってもらうために、SNSで認知度を上げ、日本グミ協会のファンを増やしていく活動を行いました。日本グミ協会のSNSでは、グミが好きな人が興味を持つようなグミレビューや写真を発信しています。

Twitter・Instagramでの発信方法の違い

ひとくちにSNS戦略と言っても、プラットフォームごとに戦略は異なります。 日本グミ協会では、Twitter、Instagramとそれぞれの特徴を生かしながら、発信方法や目的を分けています。

まず、Twitterでは拡散力を活用し、新規顧客獲得に注力。フォロワーからの引用リツイートやコメントには積極的に反応し、既存フォロワーとのコミュニケーションを深めます。新規フォロワー獲得のためには、ハッシュタグを活用したグミのプレゼント企画など定期的なキャンペーンを行っています。

ただプレゼントするのではなく、Twitterのトレンドに入るような、プレゼント用のハッシュタグを作り短時間での集中的な拡散を狙います。キャンペーンが好きな人を巻き込みつつもトレンドを作ることを意識し、プレゼント企画を実施。プレゼント企画だけではなく、グミの日までの道筋を楽しめるような工夫をしているとのこと。マンネリしがちな定期的なプレゼントキャンペーンは季節やイベントごとに内容を変え、毎回参加してくれるファンを飽きさせないようにしています。

プレゼント企画経由でのフォロワーになった人も来たくなるよう、インスタライブでもクイズ形式でプレゼントを用意しています。プレゼントキッカケでもTwitterからインスタライブに来てもらえれば、ライブエンゲージメントによるコミュニケーションの機会に変えていくことができます。

Instagramでは、日本グミ協会の世界観を作り上げ、ブランディングできるような投稿をしています。『グミ』の語呂合わせで覚えやすい夜9時3分スタートのインスタライブは、毎週配信中。インスタライブを視聴しコメントしているうちに、配信者だけでなくファン同士のコミュニケーションも深まり、ライブ配信を通じてファンコミュニティが出来上がっていきます。SNSごとに効果的な運用方法を分析し、ファンとコミュニケーションの場を作り上げているのですね。

裏グミの日の狙いは?

日本グミ協会Twitterより

日本グミ協会では、もともとあった9月3日のグミの日に合わせ、企業と協力し合ってグミを盛り上げるイベントを行っています。2022年9月3日のグミの日には、グミ93個プレゼントキャンペーンやグミ好き声優をゲストに迎えたライブ配信など、朝から晩までグミづくしのお祭りイベントを開催しました。

9月3日のグミの日イベントをさらに盛り上げるべく、2023年3月9日に『裏グミの日』というイベントも開催予定。9月3日の『グ(9)ミ(3)』の語呂合わせを逆転して制定した3月9日『裏グミの日』。狙いやイベント内容を伺いました。

武者さん:『もともとあった「グミの日」と異なり、裏グミの日という新たな記念日を作ることが目的です。本物のグミファンが楽しめるちょっとマニアックなグミの日という位置づけで、グッズ販売などで”グミニケーション”を促していきたいです。』

グミニケーションとは、初めて聞いた言葉です。グミニケーションは、グミを通じたグミファン同士のコミュニケーションのことだそう。

武者さん:『例えば、今回のグッズの一部であるTシャツデザイン(参考)は、自分の好きなグミタイプ(硬い、柔らかい、すっぱい、甘いなど)がロゴ風に描かれたもの。推しグミ味のTシャツを着てイベントに参加することで、同じデザインTシャツを着ている人に出会ったときに「私も同じハードタイプのグミが好きなんだ」というコミュニケーションが生まれるのでは?という狙いがあります。』

ライブ配信で作り上げた顧客との接点(ライブエンゲージメント)を生かし、グミニケーションというグッズを通じた新たに生まれるコミュニケーションを楽しんでもらうという狙いもあるのですね。

日本グミ協会では定期的なライブを行っていますが、新規顧客獲得のためにイベントでタレントを呼ぶというようなメリハリをつけています。エンターティメントとしてのライブを入れ込みつつ、だんだんとステップアップしてライブエンゲージメントを高めていけるようなライブコマース設計を作り上げていくことが大切です。

成功するライブコマースはコミュニケーションと導線が大切

ライブコマースを取り入れたい、ライブ配信を盛り上げたいのであれば、自ら体感してみることも大切です。ライブコマースで自分が楽しいと思う体験ができれば、自社のライブコマースにも生かせるからです。武者さんが実際に体験したアパレル企業のライブコマースを例に、ライブ配信を活用したコミュニケーションの取り方を伺いました。

武者さん:『有名アパレル企業公式オンラインストアのライブコマースは、商品を売るためではなくお客様との接点を作る”ライブエンゲージメント”を高めるために行っているといえます。ライブコマースでは、新商品情報だけでなく、インフルエンサーをゲストに招いたイベント配信やプレゼント企画などを定期的に行っています。商品を売るだけではなく、顧客とコミュニケーションを取る場所としてもライブ配信を活用しているところがポイントです。』

アパレル企業のライブは、購買体験が楽しいと言う武者さん。特に新商品が発売される時期は、わくわく感を盛り上げる工夫がされています。新商品情報が発表されたら、公式の着こなし提案アプリを利用し、サイズは自分に合うかなどを検討しておきます。YouTubeチャンネルの商品発売前情報をキャッチしつつ、発売日前日のライブコマースを視聴して実際の商品イメージを膨らませます。発売開始と同時にオンラインで購入し、商品が手元に届いた後は、YouTuberの商品レビューを見てさらにコーデの参考にして活用していくそうです。

商品を売るだけでなく、ストーリー性とエンターティメント性の高い内容のライブコマースも取り入れることにより、視聴者にさらに楽しんでもらえるコミュニケーションの場づくりになっていくはずです。アパレル企業のショッピング体験の話を伺い、購買行動のサイクル内に自然とライブコマースが組み込まれているから楽しめるのではないかと考えました。

武者さん:『お客様が商品にまつわるストーリーを体感したうえで、ライブコマースを視聴してくれる見込み客を作り上げることが大切。ライブコマースを見てもらう導線、そして売り上げを作れる導線を自然に作れるかがポイントです。』

ライブコマースを多くの人に見てもらいライブ配信を盛り上げるためには、ライブコマースが始まる前から楽しみに待っていてくれるファン、つまりオンライン上の「待機民」を増やすことが大切。オンライン上に待機してもらうには、ライブコマースを見てもらえそうな視聴者に、待機できる導線を作れるように意識してみましょう。

具体的には、ライブ配信前の時期の定期的なSNS告知、ライブコマース直前の別プラットフォームでのライブ配信など、ライブコマース直前にスムーズにライブ配信に移動できるような導線作りを意識するとよいでしょう。

まとめ

ビジネスにライブコマースを活用するのは非常に有効です。しかし、売上アップ、事業拡大のためにターゲットも戦略もなくただやってみるだけでは思うようにいかない事もでてくるでしょう.。ターゲットを明確にし、目標に向けた現実的な道筋を立ててからライブコマ―スを行いましょう。

  • 商品の認知度を上げるためにSNSを運用しエンゲージメントを増やす
  • ファンのコミュニティを作るために、ファンと積極的なコミュニケーションを取る
  • ペルソナ・商品力・ブランド力など、商品を魅力的に見せる方法を分析する

以上のことをふまえて顧客とのライブエンゲージメントを高め、ライブコマースを活用します。SNSでのコミュニケーションを積極的に行い、定期的なSNSでの交流、ファンが喜ぶことは何かを考えながら運用していくことで、ファンと密にコミュニケーションをとれるようになります。

ファンとの接点を作りコミュニティを作っていくことで、企業価値やブランド力が形成され、他の企業との差別化も図れるのではないでしょうか?ファンを巻き込んで楽しめるライブコマースになれば、もっとライブコマースが一般化して企業や商品の認知度が上がるはずです。ライブコマースをやってみたい、もっと盛り上げるためにどうしたらいいかわからないという方は、ぜひ長期的な戦略を立てたうえで定期的なライブ配信とSNS運用を行ってみてください。


宇野あゆ

幼少期り、舞台・テレビ・映画と子役・声優として活動。結婚・出産を経てフリーライターとして本・舞台・子育て・演劇など多数の記事を執筆。読みやすく読者に寄り添う文章が特徴。
趣味はクラシックバレエと人間観察。新しいことにチャレンジすることが好きで、現在はヨガインストラクター認定スクールで勉強中。


 

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