
デジタルテクノロジーを活用し、店舗運営に変革をもたらす『店舗DX』。これから店舗DXを推進したい方に向け、店舗DXのオフライン・オンラインの施策例や導入効果、DXに取り組むべき理由や店舗DXの成功ポイントをご紹介します。
目次
店舗DX(デジタルトランスフォーメーション)とは
DXとは「Digital Transformation(デジタルトランスフォーメーション)」を略した言葉で、『デジタル革新』や『デジタル変革』といった意味を持ちます。
店舗DXは、店舗にデジタルテクノロジーやシステムを導入し、新しい顧客体験や価値を提供すること。店舗運営においてビジネスを変革する取り組みを指します。新型コロナウイルス感染症が流行したことをきっかけに、店舗DXを推進する企業も増加しました。最適な店舗DXは、取り組むことで店舗の価値を高めることにつながります。
ビジネスにDX推進を行うメリット・DX導入企業事例については、こちらをご覧ください。
コラム:【参考になるDX事例あり】リスク回避にも繋がる!DXが求められる理由とメリット
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店舗DXに取り組むべき3つの理由
1.人手不足の解消と業務負担の軽減
少子高齢化により、多くの企業で人材不足は深刻な状況に。今後も労働人口の減少が見込まれ、店舗のDX化はますます求められると考えられます。
帝国データバンクの「人手不足に対する企業の動向調査(2022年7月)」によると、非正規社員の人手不足の割合は上位10業種のなかで、各種商品小売が2位、飲食料品小売が5位、専門商品小売が8位という結果に。人手不足によって業務が煩雑化したり、一人ひとりの業務負担が大きくなったりすれば、人材が定着しないといった悪循環に陥る可能性も。適切な店舗DXは、業務の効率化や省力化に貢献します。
2.購買への価値観の変化
現在は、モノが売れない・売りにくい時代です。以前はモノを所有することがステータスでしたが、近年ではサブスクリプションや使い放題サービスなど、モノを所有せず利用するサービスが定着。自動車や自転車、洋服、食品など、大型商品から日用品に至るまで、ジャンルも幅広くあります。
モノの消費からコトの消費が求められるようになり、『店舗でどんな体験ができるのか』に着目されるようになりました。他店との差別化をはかりつつ、消費者の価値観の変化やニーズに合わせて、柔軟に対応していく必要があります。
3.非接触・非対面ニーズの向上
新型コロナウイルス感染症対策をきっかけに、実店舗での接触をなるべく避けることが求められるようになりました。例えば、セルフレジの導入やタッチパネルによる非対面でのオーダー、キャッシュレス決済、などを導入する店舗も増加。これらは利用者にとっての利便性も高く、今後もシェアが拡大されることが予想されます。
オフラインの店舗DXと施策例
店舗DXの取り組みには『オフラインの店舗DX』と『オンラインの店舗DX』の、大きく2種類があります。オフラインの店舗DXは、実店舗に来店した消費者に対しての価値体験の提供やサービス向上を目指す取り組みを指します。
1.キャッシュレス決済の導入
現金でのやり取りが不要で会計ができる仕組みです。キャッシュレス決済の手段には主に、クレジットカードやデビットカード、電子マネー(SuicaやWAONなど)、QRコード・バーコード決済(PayPayや楽天ペイなど)があげられます。
現金の持ち歩きが不要、会計がスピーディー、決済履歴が残るなど、利用者にとってメリットも豊富。キャッシュレス決済の利用者は増加していて、導入する店舗も増えています。
2.セルフレジの導入
利用者が自ら会計を行うレジのことで、大きく『セミセルフレジ』と『フルセルフレジ』に分けられます。セミセルフレジは商品バーコードの読み取りは店員が行い、利用者は精算機で支払いのみ行うタイプのレジのこと。
フルセルフレジはバーコードの読み取りから精算まで、すべてを利用者が行うレジのことです。利用者が商品バーコードをスキャンするタイプが一般的ですが、レジの指定位置に商品を置くだけで全ての商品情報を自動的に読みとり、合計金額を算出するタイプもあります。
3.スマートストアの展開
IoTやAIなどによって運営を効率化・省力化させた店舗です。入店から会計までを利用者のみで完結させる無人店舗も、スマートストアのひとつです。
店内にAIカメラや重量センサー搭載の商品棚などを導入することで、利用者属性や滞在時間、混雑時間帯、商品の販売状況や在庫情報、利用者の移動経路といった多彩なデータを収集。データの取得により、店内のレイアウト改良や商品選定、販促施策など、さまざまな取り組みに役立てられます。
4.在庫管理や棚卸の簡略化
RFID(Radio Frequency Identification)を利用することで、商品の在庫管理や棚卸などを簡略化できます。RFIDとは、電波を用いてICタグ(RFIDタグ)の情報を読み書きするシステムのこと。人やモノに対する自動認識技術のひとつです。身近なモノでは、交通系ICカードやスマートキーなどに利用されています。
バーコードは商品を1点ずつスキャンするのに対し、RFIDでは複数の商品タグの一括スキャンが可能。ダンボールや袋、かごに入っている商品でも瞬時に識別でき、電波が届く範囲であれば、タグが離れていても読み取りできます。
5.セルフオーダーの導入
店員が注文を取らず、利用者が自ら注文できる仕組みです。QRコードを読み取り利用者のスマホやタブレットからオーダーする方法や、各席に設置されたタッチパネルからオーダーする方法が一般的。非接触・非対面でオーダーを完結できる、店員に気を使うことなく利用者の好きなタイミングで注文できる、注文履歴を確認できるといったメリットがあります。
オンラインの店舗DXと施策例
オンラインの店舗DXは、店舗体験そのものをデジタル化し、新しい体験や価値を提供することを指します。
1.スマホやパソコンを通じてのオンライン接客
IT技術を用いて、オンライン上で接客を行うこと。インターネット環境があれば、離れた場所からでも利用者の顔を見ながらリアルタイムに接客ができます。店員ひとりで複数店舗の接客を担当できることもメリットです。
同じ画面を共有しながら接客ができ、利用者の疑問や不安に対しその場で回答・解決することもできます。ECショップよりも商品イメージを持たせやすく、購入後のミスマッチを減らすことも可能です。ひとりの利用者に対して集中して接客ができるため、客単価の向上やロイヤルカスタマー化も期待できます。
2.バーチャルショップ(仮想店舗)の展開
バーチャルショップは仮想店舗やバーチャル店舗とも呼ばれ、3D技術やVRといったテクノロジーを活用した店舗のこと。オンライン上で実際の店舗に近い体験ができます。
ブランドやショップの世界観を感じさせやすく、商品の魅力が伝わりやすい点もメリット。店員と利用者間でコミュニケーションをとることもできます。時間や場所を選ばないオンラインの利便性にオフラインの臨場感が加わった、新しい体験価値と言えるでしょう。
3.ライブコマースによる販売
ライブコマースは、ライブ配信によって自社の商品やサービスを紹介・販売する手法です。ライブに訪れた消費者はプラットフォームのコメント機能を活用して、商品について質問をしたり、応援メッセージを送ったりでき、配信者はコメントに答えることでリアルタイムでのコミュニケーションを楽しめます。
オンライン接客が主に1人〜少人数に対して行うのに対し、ライブコマースは不特定多数の人に向けて情報を発信できる点がメリット。消費者は配信時間にプラットフォームにアクセスするだけなので、オンライン接客よりも気軽に参加できます。
この動画では、ショップのスタッフが店舗からライブ配信を行っている様子です。ライブコマース配信中に来たコメントに配信者がリアルタイムで答えている様子がご覧いただけます。
店舗DXで期待できる6つの効果
1.顧客満足度の向上
業務の自動化・省力化をすることで、自店にとってより優位性の高い業務に注力できる環境が整います。また、会計やオーダーをスムーズにしたり、待ち時間を短縮したりすることで、より快適に利用してもらうことが可能に。消費者一人ひとりに合わせたきめ細やかなサービスの提供ができ、顧客満足度の向上につながります。
店舗DXの取り組みにより、デジタルデータの収集ができる点もメリット。データを活用することで、顧客ニーズにあったサービスや接客スタイルの実現などにつなげられます。
2.人材不足の解消と労働環境の改善
これまで人力で行っていた業務をデジタルテクノロジーで自動化・省力化することで、従業員の労力と時間を省くことが可能に。業務効率が上がり、生産性の向上につながります。
これまでよりも少ない人数でも現場をまわせるようになれば、人材コストの削減にも効果的。採用活動や従業員教育にかかっていたコストも削減でき、その分を新たなサービス展開に活かしたり、従業員の給与や福利厚生に充てたりなど、有意義に活用することもできます。一人ひとりの負荷を減らすことができるため残業や深夜労働、休日出勤の減少にもつながり、労働環境の改善にも貢献。企業イメージの向上にもつながり、採用活動においてもメリットとなります。
3.ヒューマンエラーや在庫の過不足を防げる
注文や会計を自動化することで、ヒューマンエラーを防ぐこともできます。とくにピークタイムや繁忙期などはミスが出やすいタイミングです。ミスによって利用者を待たせてしまったり、クレームにつながったりする可能性も。クレーム対応への時間や労力、ミスによって生じるコストなどを削減できます。
また、商品の在庫状況や発注状況などをシステム管理することで、スタッフ間で状況を正確に把握でき、スムーズな連携が可能に。発注ミスや過剰在庫の発生、在庫不足による販売機会の損失、廃棄ロスなどを防止できます。
4.新たな体験価値の提供
VRやアプリの活用により、利用者は時間や場所にとらわれず、よりリアルに近いカタチで買い物や店舗体験をすることが可能です。例えば、VRを使ったバーチャル店舗での買い物や、アプリなどを用いてのアパレル用品の試着、メイク用品の試用などがあげられます。
利用者の利便性を高め、店舗の利用ハードルを下げられることがオンライン施策のメリット。商品の魅力を伝える、購入時の不安を解消して購買を促すなど、オフラインと同様のアプローチもできます。
5.販売経路の拡大
オンラインでの店舗DXにより、販売経路の拡大も見込めます。地域を問わず消費者の掘り起こしができるほか、これまでの顧客層とは異なる世代の取り込み、国内にとどまらず海外の消費者に向けてのアプローチも可能です。今まで接点のなかったユーザーとつながることができ、新規顧客の開拓につながります。
6.オンラインによる多様な働き方の実現
近年では、オンライン接客やライブコマースを中心に担当する人材を採用・育成するケースもみられるようになりました。オンライン接客やライブコマースであれば、従業員はどこからでも接客・販売ができるため、多様な働き方を実現できます。
オフライン接客ではいつ来店があるか予測が難しいですが、オンライン接客やライブコマースは事前にスケジュールを組みやすいのがメリット。他の業務とのスケジュールを調整しやすく、自分のペースで働きやすくなります。
店舗DXを成功させる5つのポイント
1.目標を明確にし、適切なツールを選ぶ
店舗DXは短期間で成果を得られるものではありません。自店舗の特性や顧客に合わせて中長期的な視点で目標を設定し、余裕を持ったスケジュールで取り組むことが大切です。
現在、店舗DXにまつわるツールはさまざまなジャンルで多数存在していますが、デジタルテクノロジーの導入は『目的』ではなく、DX化を実現するための『手段』に過ぎません。自社の課題は何か、どこをデジタル化すべきかを洗い出し、目的や店舗規模などに合わせて適切なツールを選定しましょう。
2.小規模・低予算から始める
店舗DXのツールやシステムには、導入費用や運用維持費が必要です。新しいシステムの導入・設定し、スムーズな運用まで持っていくには時間も労力もかかります。いきなり大規模なシステムを導入するのは失敗したときのリスクが高くなるため、まずは低コスト・小規模から始めて、必要に応じて規模を拡大していきましょう。
3.現場スタッフとの密なコミュニケーション
現場でのツールの取り扱いや業務フローの変更などが生じるため、店舗DXを成功させるには現場スタッフの理解が必要です。DX推進にはスピード感も大事ですが、一方的かつ急速に進めると、現場スタッフから反発が生じる可能性があります。
とくにデジタルに馴染みのないスタッフが多い場合は、DX化の目的やメリットを伝えることが大切です。ツール導入直後は現場が混乱しやすくなるため、事前のレクチャーやフロー説明を丁寧に行う、システムに詳しいスタッフを常駐させるなどの配慮を欠かさないようにしましょう。
4.効果測定の実施
導入後、運用を続けながら、定期的に費用対効果の検証を行いましょう。目標に沿った十分な効果が出ていれば問題ありませんが、継続していても十分な効果が出ていなければ、施策やツールの見直しを検討しましょう。
5.テクノロジーの可能性を追求する
利便性の高いデジタルテクノロジーですが、使うのはあくまで『人』です。店舗運営をよくしていくためには、店舗で働くスタッフの気付きや思いやり、自社商品やサービスに対する熱量など人の想いが欠かせません。
例えば『DX化によって空いた時間をどう有効に使うのか?』『DX化で今まで店舗でしかできなかった顧客満足をどう広げられるか』といったことを現場スタッフが自ら考え、積極的に行動するといったことも、DX成功の一因となるでしょう。
デジタルデータの収集や活用も大事ですが、現場スタッフによるコミュニケーションや顧客ニーズの汲み取りも大事なこと。デジタルテクノロジーを取り入れることで、現場スタッフが主体となって顧客満足の向上を追求できるようになります。テクノロジーを活用することに過度な不安を抱き過ぎず、人と人とのつながりをますます大切にし、デジタルとの並行活用をしていくべきだと言えます。
本コラムと別コラムでは店舗DX事例として、ライブ配信を活用したオンライン店舗DXを行っている企業を紹介します。事例をもとにDXを導入したビジネス拡大のヒントとしてご活用ください。
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まとめ
店舗DXは業務の効率化や生産性の向上、労働環境の改善など多くのメリットがありますが、導入・維持管理にかかるコストや時間・労力もかかります。店舗DXの効果を最大限に発揮させるためには、自店の課題や目標に合わせてプランを立て、適切に推進していくことが大切です。
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