スマートフォンの普及や通信技術の発達に伴い、マーケティングのチャネルも多種多様になってきました。例えばライブコマースもマーケティングチャネルの一つとして注目を集めています。
先端技術を生かした美容化粧品を扱う「fracora(フラコラ)」でも、マーケティングチャネルの一つとしてライブコマースを効果的に活用。2022年に行われた第6回 日本ネット経済新聞賞では、「ライブコマース特別賞」の受賞もされています。
今回は、fracoraを運営する「株式会社協和」corporate officerの竹腰泰子さんにお話を伺いました。マーケティングチャネルとしてライブコマースをどのように活用してきたのか、その秘訣を見ていきましょう。
目次
マーケティングチャネルとしてのライブコマース
マーケティングチャネルとは、商品やサービスが生産者から消費者の元へ届くまでの経路や媒体のことを指します。さらにマーケティングチャネルは、流通チャネル、販売チャネル、コミュニケーションチャネルに分類されます。詳しくは記事最下部にある、「マーケティングチャネルとは」もご覧ください。
今回、fracoraではなぜライブコマースを始めたのかを伺ったとき、竹腰さんは『マーケティングチャネルを拡大することが目的です。』と話されていました。最初にこれを聞いたとき、ライブコマースを販売チャネルの一つとして使用しており、その目的はfracoraの商品の売り場を増やすことだと解釈していました。しかしお話を伺う中で、fracoraの目指すライブコマースは『コミュニケーションチャネル』なのだと考えを改めました。
ライブコマースというと、ライブ配信を使用して、商品の魅力を伝えて販売することをイメージをする方が多いのではないでしょうか。fracoraのライブコマースでも、もちろん商品を販売しているため、販売チャネルの役割も果たしています。
しかし、運用している第一の目的は、商品を販売することではありません。fracoraの情報を直接提供しながら視聴者との双方向のコミュニケーションをとることのできるコミュニケーションチャネルとして活用することが、真の目的となっているのです。
では、今回取材したfracoraは、どのようにライブコマースをコミュニケーションチャネルとして活かしているのでしょうか。
最新の情報をエンターテイメントで伝えるライブコマース
コミュニケーションチャネルとして欠かせないのは、商品やサービスの情報を消費者に発信していくこと。当然視聴者も商品購入を考えている人だと思いますよね。しかし、fracoraのライブコマースに参加している視聴者は、商品の購入を目的にライブコマースを見に来る視聴者ばかりでないのだそうです。
『fracoraのライブコマースを見ているのが楽しいから、その時に欲しい商品がなくても見たい、とおっしゃってくれるファンの方も多いんです。』
ライブコマースをエンターテイメントの1つとして継続的に参加する。そうやって楽しむ視聴者が増えていくと、fracoraが今、届けたい情報を、直接伝えやすくなります。双方向のコミュニケーションで伝えた情報に対する視聴者の反応がすぐに分かりやすいことも、ライブ配信ならではの魅力です。
では、どうすればライブコマースをエンターテイメントとして楽しんでもらえるのでしょうか。竹腰さんに伺ったfracoraのライブコマースへのこだわりから、2つのポイントを見つけました。
ポイントその1.学びの要素を取り入れたコンテンツ作り
まず1つ目のポイントは、ライブコマースのコンテンツ作りにありました。
ライブコマースのコンテンツを作る際は、どうすれば視聴者が商品を購入してくれるのかを考えながら、商品の魅力の伝え方に工夫を凝らす配信者が多いのではないでしょうか。
「fracoraのライブコマースでは、商品を販売するだけではないんです。今日は販売するぞ!というライブコマースではめちゃめちゃ売りますけどね。そうでないときは「売れなくていい」と出演者と運営に伝えています。」
竹腰さんの目指す『商品販売だけではないライブコマース』とは、視聴者が知識を得て学びとなるような、啓発のライブコマース。
例えば、fracoraの商品の開発には生命科学の知識が駆使されています。生活の中で運動と食事、睡眠へと意識を向けることが、肌の透明さだけでなく体の中からの美しさに繋がっています。『お客様の健康と真の美しさ』に関連するような、fracoraだからこそ伝えられる生命科学の知識なども、ライブコマースで発信しているのです。
「私のデスクの周りは本ばっかりなんです。見なきゃいけない本がたくさんあるんですよね。そういうものをわかりやすくかみ砕いて、視聴者の生活の中にどう取り入れられるのかをお伝えするのもライブコマースの役割だと思っているんです。」
『生命科学の知識』と聞くと難しそうに感じてしまいますが、知っておくと健康や美の役に立つことも多くあります。そのような配信者自らが学んだり体感したりしたことを、fracoraのライブコマースでは自身の言葉で発信しているのです。
上記のような啓発ライブコマースが配信できるのは、fracoraのライブコマーサーの方々の努力の結果。今欲しい商品がないという視聴者でも、ライブコマースを見ると新たな知識を得ることができて、自身の健康や美しさにつながる。このようなメリットがあると続けて視聴したくなるのかもしれません。
「なんでこの商品が良いのかを説明する機会を、商品の販売とは別で作っているんです。それこそ売れなくてもいいんです。ひたすらストレッチだけやっているライブコマースとか。全然売れないんですけど、それでいいんです。配信者にもその回では、売れなくていいと言っています。」
啓発のコンテンツ作りが、結果として商品の購入につながる。良い商品はたくさんありますが、fracoraのライブコマースはその商品がなぜ良いのか、誰向けの商品なのか、視聴者自身が商品の知識を知り、疑問点を解消してから購入・使用することができます。これがfracoraのライブコマースの魅力の1つです。
ポイントその2.視聴者が中心となるライブコマースのノウハウ蓄積
ライブコマースをスタートするときに一番こだわっていることは、顧客接点を拡大すること。fracoraではマーケティングチャネルとして、ライブコマースをどのように活かすと顧客接点が拡大できるのかを考えていました。
課題点は、これまで様々なマーケティングチャネルを活用する中で、情報を伝えることが一方通行になっていること。商品の情報を発信してもお客様に届いているかわからない、届いても魅力がしっかり伝わった、ニーズがあるのかがわからないと感じていました。そこでfracoraでは、ライブコマースの運営や企画を全て社内のメンバーで行うようにしました。
「ライブコマースであれば視聴者のアクションが見えます。こういう伝え方をしたからよかったとかここは気をつけようとか、データを見ながらみんなで話し合い、企画を練り直したりしているんです。」
運営も企画も内製化することで、ライブコマースのやり方だけでなく視聴者の行動や反応も、すべて社内のノウハウとして蓄積してきました。
「ライブコマースなら、視聴者の声を直接聞くことができます。ライブコマースで視聴者と交流することができる。魅力が伝わったことを実感できる。売上を直接見ることができる。そういったおもしろさは配信者のモチベーションにもつながりました。」
例えば、配信者を外部のインフルエンサーに依頼すると、社内メンバーのモチベーションには繋がらないでしょう。内製化したからこそ、視聴者と直接コミュニケーションをとり、そこで聞いた声を社内のメンバー自身が次回のライブコマースに反映、より魅力的な情報発信のコンテンツとなったのではないでしょうか。
視聴者のリアルな声を聴くライブコマース
最近では、コミュニケーションチャネルを通して『お客様の声を聴くこと』が重要なマーケティングの戦略になると注目している企業が増えています。fracoraでも視聴者のリアルな声を配信者が直接聴くことに注力したライブコマースを実施しています。そこで、fracoraが行っているライブコマースを例にして、視聴者の声を聴くために意識している3つのポイントをまとめました。
ポイントその1.お友達と会話するようにコメントを拾う
視聴者からのコメントは、視聴者と配信者がライブコマースでコミュニケーションを取る方法の一つです。そのため、fracoraのライブコマースの配信者が特に意識しているのは、視聴者のコメントを拾うことです。
「自分が説明している時でも、何か視聴者の質問やコメントが入ればすぐに答えること。これは配信者が一番気を使っていることです。配信者の基本の「き」だと考えています。」
配信者は大人数の視聴者に対して商品の説明をします。ただ、説明に夢中になり視聴者のコメントを見落としてしまった、という話もよく耳にします。視聴者にとっては画面の中に見えているのは配信者だけ。自分のコメントに配信者が反応してくれることで、1対1で会話しているような感覚が味わえるのです。
「またコメントにこたえるときに、名前も呼ぶようにしています。名前を呼ぶことでお友達のように触れ合ってくれる視聴者が増えたんです。そして徐々にファンの方が他の視聴者にコメントで使い方をアドバイスしたり、配信者をフォローしてくれるようになりました。」
視聴者にとって、配信者の方が自分の名前を呼んでくれるのは嬉しいですよね。視聴者との距離を縮める方法としては効果的です。さらに、『〇〇さん、また来てくれてありがとう』などと、次回の配信でも配信者が自分のことを覚えていたら、たとえ実際に会ったことはなくてもお友達のように感じる視聴者も増えるのではないでしょうか。
ポイントその2.シナリオにとらわれないライブコマース
fracoraのライブコマースでは、とにかく視聴者とのコミュニケーションを重視しています。そのため、用意していた台本通りにならないことも多いのだそうです。
「台本通りにライブコマースを行うのではなく、コメントや質問で参加する視聴者が作ってくれる流れに沿ってライブコマースを行っています。コミュニケーションを重視していると、シナリオは変わってきます。」
伝えたいことを伝えたいだけであれば、動画配信でもいいかもしれません。ライブコマースを行うのだからこそ、視聴者とのコミュニケーションを重視して、視聴者が知りたいことを発信することに注力するのです。
「こうでなければいけない、とか、この時間で終わらなければいけない、とかは全く決めていません。視聴者がいる限り続けてくださいと配信者には伝えています。コメントが盛り上がって終わらないときは、配信者はずっと話し続けてへとへとになるんですけどね。」
視聴者の聞きたいことがなくなるまで対応し配信を続けることは、体力的にも精神的にもいろいろと簡単ではありません。ですが、視聴者の要望に真摯に向き合うfracoraのライブコマースの雰囲気や配信者の姿勢を見て、視聴者はfracoraを信頼しファンになることへと繋がっています。
ポイントその3.ライブコマースならではのハプニングを活用する
社内メンバーを中心としてライブコマースを続け、とにかく場数を踏もうとした結果、様々なハプニングもありました。始めた当初は、社内でもライブコマース事業への取り組みを把握していない社員もいて、ライブコマースの配信中に配信者の後ろを通り過ぎる方もいたそうです。
しかし、そんなハプニングに対して、視聴者の反応は好意的だったのです。いつも見ているライブコマースの裏側が予期せず見られたことで、喜ぶ視聴者もいました。そこで、ライブ配信ならではのハプニングをあえて演出することもあるのだそうです。
「最近では、あえてハプニングを狙って企画したりもするんです。人気の配信者がいるので後ろ横切ってもらったりとか。そうすると視聴者から「〇〇ちゃん!」とコメントが来るんです。なので、今は意図してやることもあります。」
時にはハプニングを演出することで、視聴者に『この後どうなるんだろう』というドキドキや、貴重な場面に立ち会えたという特別感を感じてもらうことができます。一緒にハプニングを乗り越えることで、同じ経験を乗り越えた仲間のように感じます。そのため継続的に応援しよう、というファンになっていくのではないでしょうか。
ライブコマースでコミュニケーションが加速する関係づくり
fracoraでは、販売チャネルとしてだけではなくコミュニケーションチャネルとしてもライブコマースを活用していることが、大きなポイントです。視聴者とのコミュニケーションを大事にしながら情報発信を行った結果、商品は購入しないけど時間があるから、とfracoraの配信に来てくれるコアファンの方も増えました。
現在では、物ではなく「人」に価値を感じてお金を使うという消費者が増えつつあります。つまり、良いものだから購入したいのではなく、この人が言うから購入したいと消費者は考えているのです。そういった固定ファンを増加させたい企業は今後も増えていくでしょう。
直接配信者とコミュニケーションが取れるライブコマースは、顧客の固定ファン化に適しています。fracoraのライブコマースのように、商品の販売だけでなく視聴者としっかりとコミュニケーションをとることで、fracoraの配信者と過ごしたいと考えるコアファンを増やすことができるのです。
「完璧じゃないところがライブコマースの面白さなんです。できなかった部分やミスも含めて改善しながら、配信者がのびのびとライブコマースに取り組むことで、少しずつ完成度が上がっていきます。それが配信者の顔つきにも現れます。社内の雰囲気も伝えられると、変わっていくことが視聴者にも伝わるんです。」
fracoraでは、和気あいあいとした雰囲気でコミュニケーションを楽しんでいるライブコマーサーが多い印象で、コアファンばかりなのかと思いました。しかし実際は新規の視聴者も多いそうです。配信者が楽しそうに配信しているから、視聴者もコメントしやすく、雰囲気の良いライブコマースとなっているのではないでしょうか。
ライブコマースの雰囲気は、配信者の日頃の雰囲気がそのまま表れるのですね。
「(fracoraでは)新しいことにチャレンジするために、上下関係の垣根を作らないようにしています。何でも発言できる雰囲気を本当の意味で作れるようにかなり意識しています。なのでプロジェクトに対してみんなで一緒に作っていこう、という雰囲気ができていると思っています。」
『みんなで一緒に作っていこう。』
竹腰さんの姿勢が他の配信者にも伝わり、さらには視聴者にも伝わります。視聴者がライブコマースの作り手の一人となり、その結果、fracoraのコアファンが増える、という循環が生まれているのです。
ファンがつながるこれからのfracora
視聴者とのコミュニケーションを大切にするfracoraのライブコマースは、2022年6月に行われた第6回日本ネット経済新聞賞で「ライブコマース特別賞」を受賞。そこでライブコマースをきっかけにコアファンを増やし続けているfracoraの今後についてお聞きしました。
「本当の意味でfracoraを応援してくれる熱いファンを増やしていきたいですね。健康に生きる、美しくあるということはどういうことなのか。正しく理解しているからこそあふれる美しさがあります。この美しさを持つファンの方を増やしていきたいんです。」
現在、fracoraの商品について勉強会を開催したり、商品の愛用者にPR大使として応援してもらったりと、コアファンを増やす活動を積極的に実施しているそうです。窓口が広いと、お客様は様々なきっかけでfracoraに興味を持ち、商品や人が好きになります。そしてコアファンが増加していくのです。
ライブコマースを見て商品を知った方が使ってみたり、商品を購入した方がライブコマースを見て知識を深めファンになったりと、様々な手段の1つとしてライブコマースも活用されているのですね。
「fracoraの愛用者が友人にお勧めして、さらにfracoraの魅力が広がっています。これをさらに広げて、fracoraを愛してくださるファンのネットワークを20万人にしたいんです。」
20万人のファンというのは大きな目標。ただfracoraのようにライブコマースなどのコミュニケーションチャネルを活用していけば、夢ではない数字だと思います。今後のさらなるライブコマースの活用に期待できそうです。
まとめ
マーケティングチャネルの拡大を目的にスタートしたfracoraのライブコマース。fracoraでは商品を販売するだけではなく、情報を発信しお客様のリアルな声を聴くことにもライブコマースを活用しています。
近年、お客様の声を聴くことに注目する企業が増えています。ライブコマースをコミュニケーションチャネルとして活用しながらコアファンを増やすfracoraの取り組みにも、より注目が集まりそうですね。
【参考】マーケティングチャネルとは
マーケティングチャネルとは、商品やサービスが生産者から消費者の元へ届くまでの経路や媒体のこと。このマーケティングチャネルは、商品やサービスの特徴に適したものを選んで運用することにより、円滑に顧客へと商品やサービスを届けられるようになり、売上も向上します。
マーケティングチャネルは、さらに、流通チャネル、販売チャネル、コミュニケーションチャネルの3種類に分類されます。
流通チャネルとは、卸売業者や小売業者など、商品やサービスが販売者から消費者に届くまでの過程に必要な手段や経路のことを指します。販売者から消費者の間の経路が増えるほど中間マージンが発生し、販売者の利益率は下がってしまうため、販売者が直接消費者に販売するD2C(Direct to Consumer)も注目を集めています。
D2Cについてはこちらの記事もご覧ください:
日本のD2Cアパレルブランド15選!人気のポイントと成功の秘訣をまとめてご紹介
販売チャネルとは、実店舗やECサイトなど商品やサービスを消費者が購入する場所のことを指します。インターネットの普及に伴い販売チャネルの選択肢が増え、消費者は自身の目的やチャネルのメリットを踏まえて、どの販売チャネルを使うのかを決定しています。そのため、販売者もそれぞれのチャネルに合わせて準備や工夫を行っています。
コミュニケーションチャネルとは、ホームページやSNS、テレビ広告など、商品やサービスの情報を消費者に伝えるための手段や経路のことを指します。最近では、商品やサービスの情報を販売者から消費者へ伝えるだけでなく、消費者の意見を聴くなどの双方向のコミュニケーションをとるための場として注目する企業も増えてきています。