ライブ配信アプリPococha(ポコチャ)が行っているライブコマースの魅力とは?ライバーの「職業としての安定性・魅力」を増やしていく目的でスタートしたライブコマースはどのような工夫と仕組みがあるでしょうか?リスナーを巻き込んでコミュニティ全体で盛り上がりを生むイベントにも注目です。
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Pocochaアプリの「中の人」へ独自インタビュー!ポコチャの魅力を聞いてみた!
ライブ配信が楽しめるアプリとして17LIVEやミクチャ、SHOWROOMなど楽しいアプリがどんどん増えています。その中でも注目アプリの1つがPococha(ポコチャ)。今では日本だけではなく、アメリカやインドでも広がっています。運営はプロ野球「横浜DeNAベイスターズ」でも有名なDeNA。誰でも配信しやすく、幅広いユーザを対象とした特色あるライブ配信アプリです。
ライブ配信といえば、ギフティングなどの課金アイテムというイメージが強いのですが、ライブ配信アプリの考える「ライブコマースへのアプローチ」ってめちゃめちゃ興味深くないですか?
そこで「ライブコマースのこと、どう考えてますか?」というストレートな疑問をPococha(ポコチャ)さんにぶつけてみたところ、なんとPococha(ポコチャ)アプリ運営の最前線にいらっしゃる方々から直接お話をお伺いできる機会をいただきました!ありがとうございます!
今回お話をお伺いしたのは、Pococha(ポコチャ)を運営する株式会社ディー・エヌ・エーの齋藤岳さんと、佐藤直樹さん。今をときめくサービスを運営されているだけあって、キレッキレの方なんだろうなと勝手に想像していましたが、聡明さスマートさに加え、内に秘めた「熱さ」を感じさせる本当に素敵なお二方でした。内緒にとっておきたいくらいの濃い内容ですが、特別に公開させていただきます!(※)
「ライブコマース」から「コミュニティコマース」へ
ー早速ですが、ズバリPococha(ポコチャ)の「ライブコマース」への取り組み、考え方を教えてください。
現在Pococha(ポコチャ)では、「コマースを通した配信枠での体験」という観点で検証を重ねています。Pococha(ポコチャ)もそうですが、日本で流行っているライブ配信アプリは「ギフティング」がライバーのマネタイズ(課金)ポイントになっていることが多いと思います。一方中国などは、コマース(物販)や広告といったマネタイズポイントも含まれています。
元々Pococha(ポコチャ)がライブコマース分野に取り組もうとした背景ですが、リスナーからの収入以外にも、企業からのお仕事による収入といった選択肢を増やすことで、ライバーの「職業としての安定性・魅力」を増やしていく、という目的からスタートしています。
ー具体的にどのようにライブコマースに取り組まれたかを教えていただくことはできますか。
(佐藤さん)
最初の段階ではまずは数名のライバーをアサインして、クライアントからいただいたお仕事として普段のライブ配信の中で商品をPRする、ということをさせていただきました。ただ、ライブ配信の内容としては、「ライバーが商品紹介をしただけ」になってしまいました。「お仕事もらえて良かったね」「普段の活動が認められたんだね」とライバーがリスナーに言われるなど、ライバーサクセスというのは一部見受けられました。しかし、販売実績はほとんどなかったため、クライアントがご満足する結果には至っておらず、単純にライブ配信の中で商品の紹介する形は難しいということがわかりました。
ーなるほど学びがあったということですね。
(佐藤さん)
はい、例えば中国には、KOL(Key Opinion Leader)と呼ばれるフォロワーが多く影響力も非常に大きいインフルエンサーがいます。このKOLが企業とタイアップし、彼らの大量のフォロワーに対して、信頼性と低価格という2つの要素を拠り所に、短期間で爆発的な売上を作る、というケースがあります。ですが、それは中国の市場だから成り立つものであり、市場環境の異なる日本では同じようにはいかないですし、コミュニティサービスのPococha(ポコチャ)でも当然同じようにはいきません。
Pococha(ポコチャ)の文化は、リスナーがライバーを「応援する」というのが根本的にあり、その想いをアイテムやコメントに載せてコミュニケーションを取り、コミュニティの絆を深めていきます。Pococha(ポコチャ)でのコマースにおいても、Pococha(ポコチャ)の「応援」という文脈に乗せたり、「コミュニティでの体験」という文脈に乗せたりしないとうまくいかないのではないかと考え、Pococha(ポコチャ)では、実際に応援という文脈にのせたイベント「Sell Me Goods!」を検証することにしました。
「ものを売る」のではなく「体験を共有する」ための「コミュニティコマース」
ーそこで次に実施したのが「Sell Me Goods!」というイベントになるんですね。
(齋藤さん)
はい。「Sell Me Goods!」というイベントは、商品のPRを複数人のライバーで特定の期間に一斉に行い、期間中の購入者数で競い合う、という企画です。最も販促できたライバーは、商品提供を受けたり、「宣伝大使プロフィール」の称号やプレスリリースの掲載権利がもらえたりといったイベントになっております。
購入数ではなく、購入者数で競い合う、というのもこの企画の1つのポイントです。「購入数」を競い合ってしまうと、1人で複数、時には数十個買う「爆買い」する人が出てくる可能性もあると思います。「Sell Me Goods!」で目指したい体験として、「1人の人が複数個商品を買ってイベントに勝つ」ということではなく、「多くの人が商品を購入してくれることでイベントに勝つ」ことができる、といったことや「多くの人と、このイベントを通して体験を共有することができる」ということが目指したい体験でありました。そのため、このイベントでは「購入数」を競い合うのではなく、あくまで「購入者数」を競い合うという形にしています。
Pococha(ポコチャ)ではこの「Sell Me Goods!」で行われる体験からPococha(ポコチャ)におけるコマース体験をライブコマースではなく、コミュニティコマースと定義しています。
ー「コミュニティコマース」大変興味深いです。もっと教えてください。
(佐藤さん)
先程お話した、多くの人がこのイベントを通して体験を共有できるということは、このコミュニティコマースの重要な観点の1つです。例えば、イベントで買った商品を、後日ライブ配信に参加したみんなで一緒に食べる会をしたり、打ち上げをするなど、「購入する」だけでなく、「みんなで一緒に体験・商品を消費する」というところまで繋がっています。実際に一番最初の「Sell Me Goods!」は昨年の12月に実施したのですが、年末ということもあり『届いた商品をみんなで体験・共有するために忘年会を実施しました』という声をいただいたき、ものを通して体験を共有する、ということが実際に起きていることを見ることができました。
(齋藤さん)
クライアントにとっては、販売数だけでなく、色んな人に買ってもらえる手法かつ、販売した後の「利用」まで設計可能なマーケティング手段になっているのではないかと考えています。一人の人が消費しきれないほどの商品を買ってその商品がその後どうなっているかわからない状況よりも、多くの人に商品の魅力を知ってもらって買ってもらうこと、かつ実際に商品を利用してもらうことが望ましいと思います。商品を利用してもらうために、購入した商品をコミュニティの皆で楽しみながら一緒に体験してもらう方がクライアントの商品のPRとしては望ましいと思います。
コミュニティサービスであるPocochaでの商品のPRという新しい体験を通じて、ライバーの新しい一面やリスナーの新しい一面を知ることができ、コミュニティのみんなで同じ体験をすることができます。こういった体験そのものが新たな価値になる、ということがわかっているので、商品を通じた体験に思想を寄せています。
ーイベントと聞くと、ライバーの魅力や努力で販売数を伸ばしたり入賞を目指す「個人戦」のイメージがありましたが、実は「団体戦」のイメージということですね。
(佐藤さん)
そうですね。リスナーもライバーを応援したいという想いがベースにあるだけにライバーよりもリスナーの方が商品をよく研究してきてライバーに教えたり、「こういう風にPRするのがいいのではないか」や「こういうアレンジレシピをしたらどうか」などみんなで作戦会議のようなものをするといったこともあります。イベントに参加したみんなで1つの商品を通じて同じ体験をすることでさらにコミュニティのつながりや楽しみが深まる、というのが面白いところです。
(齋藤さん)
イベントに参加したみんなで協力するという点で考えると、その場に集うみんなで1つの商品を通じて同じ体験をする、ということの1つにGoodPRコンテスト、という企画も同時に行っています。Pococha(ポコチャ)でPRしている動画を2分程で撮影してもらって、TwitterなどのSNSに投稿していただくという企画です。その企画を、Pococha(ポコチャ)運営・クライアントで表彰させていただきます。ライバーが商品を紹介するだけでなく、リスナーがその紹介をアイテムで盛り上げたり、商品の魅力を引き出す質問をリスナーがコメントしてライバーが答えるという動画になったり、ライブ配信ならではのインタラクティブなPR動画として、協賛企業様からも非常に満足いただいております。コミュニティとしても、一つの作品を作り上げる過程で、皆で作戦会議をしたり、実際の動画を撮影するときも楽しさを感じたりと非常に良い影響があると考えています。
コミュニティコマースの成果と広がり
ーコミュニティコマースの考え方、とても面白いですね。でも、やはりすみません、コンセプトはよくわかりつつ、どうしても「結果」「数字」も気になるところです(笑)
(佐藤さん)
これまでのSell Me Goods!では、一回のイベントで3日間で200個~300個程が販売数として出ています。またCVRとしては15%程度の数字となっており、これは従来のインフルエンサーマーケティングのCVRと比べると数倍〜数十倍の数値になっていると思います。
ーそれはすごいですね!思い切って教えていただき感謝します(笑)。企業からの商品PRのご依頼がどんどん舞い込みそうです。
(齋藤さん)
他にも「Pocochaで華金!キャンペーン!」という、コミュニティの皆でビールを事前に購入して華金を楽しもう、というキャンペーンを開催しました。商品をPRするような形ではないのですが、コミュニティで同じ体験をするために購入する、という意味でコミュニティコマースの本質的な企画であり、こちらについてもPococha(ポコチャ)ユーザー・取引企業様ともに非常に満足度の高い取り組みとなりました。我々から、コミュニティで楽しむための「コンテキスト」を提示し、そのコンテキストに沿って購買〜利用まで楽しんでいただくというコンセプトは、華金だけでなくたくさんのコンテキストで展開できると考えていますし、このタイプのキャンペーンは、参加ライバー数も増えるのでより大きな規模を望んでいるクライアントにも提供していける価値があると思っています。
ー今後の「コミュニティコマース」の広がりのイメージを教えてください。
(齋藤さん)
今は飲食系のクライアントと一緒にお取り組みをしているケースが多いのですが、「コミュニティで体験する」という考え方に則ると、エンタメ・ファッションなど、まだまだ拡大の余地はあると考えています。また、Pococha(ポコチャ)でのコミュニティコマースにおいては、有名な商品だけではなく、コミュニティの特性に応じた商品が売れる傾向にあると考えています。例えば、「お酒が好きなコミュニティだったらみんなでお酒買おうよ」という形になったり、ライバーがある地方の出身だったらその地方のものだったり。その観点で、現在地方のクライアントと一緒に「Sell Me Goods!」にチャレンジする計画をしています。
(佐藤さん)
「Sell Me Goods!」や「Pocochaで華金!キャンペーン!」とは別ですが、Pococha(ポコチャ)の「アイテム」を活用した商品のブランディング・広告の検証も行っています。企業の商品をPococha(ポコチャ)内のコラボアイテムとして展開するというものです。Pococha(ポコチャ)ではコミュニケーションの手段としてアイテムが使われており、商品コラボアイテムが使われることで、自然とその商品の話題になることだったり、ポジティブな認知形成につながる、ということがこれまでの検証からわかっています。また商品の話題が生まれることで、そこから実際に商品を購入して一緒に体験・消費する、といったことも生まれることがわかっており、コミュニティコマースと同様の体験がここでも生まれるんだなということが分かりました。このような取り組みも今後もっと広げていきたいと思っています。
(齋藤さん)
また、Pococha(ポコチャ)で配信をする方々の熱量は非常に高く、Pococha(ポコチャ)のライブ配信で人生が変わったという方もいるくらいです。一方で、その熱量はまだまだPococha(ポコチャ)の中に閉ざされている側面も大きく、我々としては、「Pococha(ポコチャ)の熱量やライバーという職業を社会と接続していく」役割があると思っています。例えば、企業の宣伝大使や、地域を盛り上げていくステークホルダーとしてライバーという存在がいて、Pococha(ポコチャ)のコマースを通して社会と接続することで、Pococha(ポコチャ)がより価値のあるプラットフォームになるのではないかと思っています。
(佐藤さん)
これまで一緒に取り組みをしていただいたクライアントには、Pococha(ポコチャ)のライバー・リスナーが築き上げてくれているコミュニティをとても評価していただきました。これからもいろんな方にPococha(ポコチャ)の様々なコミュニティの価値が魅力的に感じてもらえるように頑張っていきたいと考えております。
編集後記
Pococha(ポコチャ)を含むDeNAのライブストリーミングのビジネスの数字は、会社決算情報や、noteなどでも情報が開示されています。興味がある方はぜひ調べていただきたいのですが、一言で言うと「凄すぎ」です。応援やコミュニティが作る「経済圏」はもはや「新しい経済圏」と言っても過言ではありません。
これまでのほとんどの経済活動は「商品・サービス」を介して成り立ってきたと考えられます。しかし、「商品・サービス」が一定の段階に来た現代の成熟社会においては、この記事でも取り上げさせていただいた「応援」や「コミュニティ」といった新しい価値が経済を作っていきます。経済が何を「価値」として成り立つのか、大きなパラダイムシフトが起こっていると改めて認識しました。
ギフティングと聞いて「そのお金の使い方はなんの意味があるんだ?」「費用対効果は?」などと言っていると、この新しい経済の流れを理解することはできないと断言します。そんな方には、すぐにPococha(ポコチャ)をダウンロードして、配信を見たり、配信側を体験したりすることをオススメします。
今後のPococha(ポコチャ)のプラットフォームが、日本を飛び出して世界に広がっていき、その新しい価値を元に新しい経済圏を生み出していくのだと思うとワクワクが止まりません。
(※)本記事はウェビナビによる取材を基にした記事であり、株式会社ディー・エヌ・エーやPococha(ポコチャ)の公式見解を表するものではない点ご留意ください。
新井隆司
ウェビナビ編集長(シナジーゲート株式会社代表取締役・株式会社ネクプロ 取締役ファウンダー)。 日本証券アナリスト協会 認定アナリスト(CMA)。アクセンチュアでのコンサルタントやその後資産運用会社で、年間300人以上の経営者とのインタビューを行い、ビジネス・事業分析に定評がある。
その後自身でも株式会社ネクプロでオンラインセミナーのプラットホーム事業を立ち上げ、起業家・ベンチャー企業運営の実体験も持つ。その経験を生かして、ライブコマースに特化したメディア「ウェビナビ」を立ち上げ、ライブ配信を活用したビジネスについて発信している。