四方を海に囲まれ、自然資源に恵まれた日本において、農業・漁業・林業といった一次産業は日本に無くてはならない生業となっています。そして、その一次産業に携わる方の多くは、東京や大阪といった都心部ではなく、自然豊かな地方で活躍されています。しかし、地方では人口の減少や高齢化などの課題が多いことも事実。そんな地方において一次産業に携わる生産者に寄り添い、「デジタル愛媛ツアー」というライブコマースの取り組みを行い、企画・運営している企業があります。

ライブコマースを企画・運営する目的は、地方だからこそ『デジタル』の力を活用してビジネスチャンスを広げていってほしい、という考えを持っているから。今回はそんな思いから愛媛県を拠点に活動する「株式会社クリエ」を作り上げた、代表取締役の出口友子さんにお話を伺いました。愛媛県で『デジタルの力』で『ビジネスチャンス』を作り出していく出口さんのお話を通して、ライブコマースの活用が地方創生に繋がっている理由を探っていきます。愛媛県に限らず、地方での事業に取り組まれている方のヒントになると幸いです。

【地方創生の取り組みとして】デジタルの力で愛媛を盛り上げるライブコマース誕生のきっかけ

日本は自然環境に恵まれた国。森林の面積は国土の67%という農林水産省のデータから『林業』、森林の栄養が川を通じて田んぼや畑、海へと運ばれるため『農業』や『漁業』にも適している土地であることがわかります。もちろん地方ごとによって取れる作物や海産物などは様々。一次産業を支える地方の生産者は、その土地の土壌や気候に合わせて、その地方ならではの特産品を生産しています。

しかし、地方の生産者の方々は『多くの課題』も抱えています。一次産業に携わる方は65歳以上の高齢者が多く、高齢化が進んでいます。また地方の人口減少が加速していたり、第一次産業は大変という偏見から若者が集まらなかったりするため、後継者不足に悩む生産者の方も多いのです。

流通経路も時代とともに変わり、欲しい商品は店頭で購入するだけではなく、ECサイトなどオンライン上で商品を販売・購入することが当たり前となってきています。しかし、高齢化が進む一次産業の生産者の方々が、オンラインで商品を販売するという方法に取り組むのは難しく、対応が遅れてしまうという現状もあります。

今回取材させていただいた出口さんが、地元の一次産業で活躍する生産者の方々とライブコマースを始めたのは、このような地元の方々が抱える課題に直面したことでした。愛媛県出身の出口さんは、ライブコマースに挑戦する以前、東京を拠点として事業を行なっていました。2020年のコロナ流行で第一次産業が打撃を受けたことに直面したことをきっかけに、自身の戦場カメラマンやテレビ局で在籍した業務経験を活かして、愛媛県を紹介するYouTube動画を制作。せっかく動画を撮るのであればと、初めてのライブコマースへの取り組みを始めました。

出口さんが初配信したライブコマースは、愛媛で生産している『真鯛の養殖場からライブ配信』。愛媛県は真鯛の養殖の生産量が日本一で、国内全体の6割近くを占めています。当時は、コロナの拡大の影響で外出自粛など様々な制限があり、真鯛の主な出荷先である豊洲市場なども閉鎖してしまうなど、計画通りに商品を出荷することが困難な状況でした。

しかし、出荷先が無いからと言って、真鯛の養殖は『獲らない』ということはできません。定期的に食べ頃の真鯛を獲らないと成長しすぎてしまい、養殖サイクルの維持が出来ないからです。そのため、毎月約5000匹の愛情をかけて育てた真鯛が、食べ頃なのに出荷できないという課題を抱えていたのです。この状況を解決するために、『養殖場の隅で釣った真鯛を、ライブ配信内で投げ銭をしてくれた方に発送する』というライブコマースを行ないました。

初めてのライブコマースの様子は地元の新聞社の目に留まり、その後も新聞・テレビなど多数のメディアでも取り上げられています。メディアの力もあり、出口さんのライブコマースは継続できたのですが、その裏には、愛媛県内で暮らす多くの方々が感じている課題があったのではないかと考えます。

出口さん:withコロナ、afterコロナのこれからの時代に、デジタルの力で愛媛にいながら非対面型ビジネスができるということは、一次産業の生産者の方々や観光業の方々にとってはとても大きなことです。

全国の消費者とのビジネスを成立させる必要性を感じていた地元の方々にとって、ライブコマースという手段は1種の成功事例だったのではないでしょうか。全国規模でビジネスを成立させたい、という思いはどこの地方にも存在すると思います。今までにない新しいPRの場として注目を集めた取り組みなのではないかと思います。では、出口さんはどのようにライブコマースを活用されてきたのでしょうか。

【実施した取り組み】ライブコマースで出来る、生産者ならではの発信

六次産業化の推進と注目されるD2CやP2C

近年では六次産業という言葉が定着してきました。六次産業とは、一次産業である農業や漁業、加工の二次産業、サービスや販売の三次産業まで生産者が一貫して行う、一次から三次を融合させた新たな産業です。例えば、みかんの生産者が、収穫したみかんを工場でみかんジャムやみかんジュースに加工し、できた加工品を提供するといったような取り組みが挙げられます。

平成23年3月には政府の政策として「六次産業化・地産地消法」が整備されたこともあり、生産物自体の価値を上げることで、一次産業に携わる方々の所得の向上や新たな雇用機会の創出を進めることが出来ると期待されています。全国的な六次産業化を推進する流れも加速していて、一次産業に携わる方々にとっても、生産したものを加工食品にして自身で販売まで行うプロセスを構築することが、より身近になっています。六次産業化が進むとともに、最近では「D2C(Direct to Consumer)」や「P2C(Person to Consumer)」という言葉も注目されています。これは、企業や個人販売者が卸や小売りなど現状の流通網に乗せず、消費者に直接商品を販売するという意味です。

D2CやP2Cが注目されている理由は、以下のようなメリットがあるからです。卸や小売りなどの流通網に乗せることは、生産者にとって商品の販売に手間を割かずに済み、生産に専念できるという利点があります。一方で、流通の過程で中間マージンがかかり、結果的に消費者の手元に商品が届くときには値段が高額になってしまったり、生産者に入る売上金が少なくなってしまったりというデメリットも。

そこで、値段を下げる対策として注目されているのがD2CやP2C。通信技術が発達した現代では、オンライン上で生産者が直接消費者に商品を販売することも可能。誰もが全国・世界に発信できるメディアを持てる時代となっています。ライブコマースも誰でも持てる発信ツールの一つなのです。

生産者の想いとともに商品を全国へ届ける

D2CやP2Cのメリットは価格だけではありません。生産者がどれだけ商品にこだわりを持ち、どれだけ愛情をかけて作っているのか、という想いは流通には乗せられません。生産者の想いを消費者に直接届けられることも、D2CやP2Cが注目される理由の一つです。日本は商品の質が高く、良い物があふれています。そんな中、最近では商品の質だけでなく、その商品の背景やストーリーへ興味を持つ消費者も増えています。

また、消費者庁もSDGs(持続可能な社会への取り組み)関連の施策として「食品ロスの削減の推進に関する法律」を令和元年に策定するなど、SDGsへの取り組みに社会が関心を抱いています。地方自治体によるSDGsに関する制度も策定され始めました。そのため個人だけでなく企業も、このようなエシカルな商品やフェアトレード商品に注目しているのです。

出口さんが企画・運営するライブコマース配信『デジタル愛媛ツアー』は、最初は地方の特産品を全国の消費者へ届けることを目指して始めたものです。しかし、愛媛県の一次産業の生産者の方々と接する中で、出口さん自身も商品中心ではなく、『生産者の方の想い』を届けるライブコマースをしたいと考えるようになりました。

出口さん:生産者の方々は、実は環境問題やSDGsに熱心な方がたくさんいらっしゃいます。作る側の責任を考えている生産者がたくさんいるんです。養殖は海を汚す、そういった問題にも真摯に向き合って生産していることを届けたいんです。

養殖は、過剰な餌や養殖個体の排泄物の蓄積、薬物投与による水質の汚染など様々な問題が懸念されています。またフードロス問題へも注目が集まる中で、生産者の方々は消費者に『作ったものを届けて食べてもらうまで』という過程を一貫して考えながら、消費される量に合わせて生産しているのです。

地方の生産者の方々だからこそライブコマース

ECサイトを使って商品を販売することも、D2CやP2Cの一つです。全国各地から消費者が好きなタイミングで商品を購入できるように、「食べチョク」などのECサイトへ商品を掲載を行う方や、自社のECサイトを作成している生産者を目にすることも増えました。一見便利に思えるECサイトですが、地方の生産者にとっては課題も多いと出口さんは考えています。

出口さん:ECサイトは地方の方、特にご高齢の方にとっては難しいんです。都会のブランディングがうまい人の商品と並ぶと、どんなに良い物だったとしても見劣りしてしまいます。

消費者が購入するか否か判断するのは、ECサイトの商品を写真と文字情報のみ。例えば『みかん』と検索すると、上位には大手のECサイトが表示されるため、一般生産者のECサイトはなかなか見つけてもらうことが出来ません。また大手ECサイト内で検索すると、たくさんのみかんが表示されます。その中で選ばれるために重要なのは、綺麗な写真と、目をひくキャッチコピー。ブランディングに慣れていない地方の生産者には不利な状況かもしれません。

まして、ライブコマースとなると地方の生産者の方々にはECサイトを作るよりも難しい、と思われるのではないでしょうか。綺麗な写真とキャッチーな文章ではなく、スマホの映像と素人のトークで商品の魅力を伝えることは、さらにハードルが高いようにも思います。しかし、出口さんはライブ配信だからこそ『競う必要がないと』言います。

出口さん:生産者の方の素朴で口下手な雰囲気が魅力ですよね。その雰囲気こそが商品の付加価値。トークで魅力を届けて販売できるんです。

現在の流通ではなくライブ配信で魅力を届けることで、商品の良さだけではなく、生産者の生の声も含めて商品の価値となります。商品はもちろん生産者のファンになってくれれば、その人のものだから買う、という層が生まれるため価格競争が起こりにくくなります。大事なのは、口下手でも商品の魅力や商品への思いをしっかりと伝えるということです。

【全員で取り組む】地方創生のライブコマース

1.ライブコマースで成長するためには「みんなで作り上げる」

2020年の11月にスタートした「デジタル愛媛ツアー」は開始2年間で視聴者数は延べ35,000人、その間に一緒にライブ配信を行った企業は110社以上と出口さんの取材の中で伺いました。ライブコマースを継続する中で、何度も課題を乗り越えて来たからこそ、今の出口さんのライブコマースがあります。これまでどのようにライブコマース事業に取り組まれてきたのでしょうか。

2.トラブルも一緒に乗り越える

デジタル愛媛ツアーでのこだわりの1つは、『屋外から行う配信』。愛媛の商品や人の魅力を、愛媛の風景と合わせて視聴者に伝えることで、実際に愛媛を旅行した気分も味わうことができるからです。実際に「デジタル愛媛ツアー」を見て愛媛県に旅行に来る視聴者もいるそうで、地域活性化にもひと役かっています。

『屋外からライブ配信が行われること』は愛媛の魅力の発信につながっていると考えられます。しかし、屋外でのライブ配信は、屋内で行うライブ配信よりハプニングやトラブルが起こりやすくなります。実際に、出口さんも何度もハプニングを乗り越えられたそうです。

野外からのライブ配信のハプニング例としては、電波が悪く配信が中断してしまったり、関係者以外の方に話しかけられたり、うまく音声が届かなかったりというものがあります。

以下は、関係者ではない地域の方に話しかけられ、そのハプニングを利用して動画の盛り上げに利用した一例となっています。ライブ配信では、ハプニングにどう対応するかによって、突然の出来事をライブの魅力に変化させられるということですね。

生産者の方と一緒に数々のハプニングを乗り越えながらライブコマースを続けられている背景には、一方的に支援するのではなく、生産者さんと連携しながら『魅力が伝えられるライブ』を作り上げるという信念があるのではないでしょうか。

3.共に成長していく配信者

ライブ配信を一緒に作り上げていくためには、出演する生産者の方の魅力を引き出すレポーターの存在も大切です。そんな「デジタル愛媛ツアー」の継続に欠かせないレポーターとして登場するのは高岡奈々葉さん。出口さんは『彼女がとびぬけて天才なんです。』と語ります。

ライブコマースのレポーターとして誰をキャスティングするべきなのか、と模索を続ける中で高岡さんの存在を知り、オファーをしたことから始まりました。高岡さんは愛媛県の大学生。中学生のころから毎日ライブ配信を継続していて、大学1年生を対象としたミスコン「FRESH CAMPUS CONTEST 2020」で準グランプリに輝いた経験もあります。

ライブコマースにレポーターとして参加した当初は、高岡さんにとっても初めての経験だったため天才というわけではありませんでした。具体的には、クライアントの方がふるまってくれたアワビを食べたとき、食レポで『イカみたい』とコメントして出口さんや視聴者の方から『アワビだよ!』とツッコミが入ることもあったそうです。ここでも、出口さんはみんなで作るという姿勢を変えませんでした。

出口さん:高岡さんもレポーターとしてのプロじゃないし、私たち(株式会社クリエ)もベンチャーだし、ライブコマース業界だって生まれたてだけど、それでいいんです。視聴者も含めてみんなで育てていこうということをずっとやっていたんです。

つまり、始めはみんな初心者。生産者、視聴者、出口さんのような裏方の方たちと一緒にライブコマースを行い、経験を重ねることで、高岡さんもレポーターとして成長していったということですね。

【地方創生の取り組みで繋がる】地方で活躍する企業と実施するライブコマース

「デジタル愛媛ツアー」のライブコマースは、今では拾いきれないコメントで盛り上がっていますが、出口さんが初めて配信したライブコマースは参加者8人だったそうです。愛媛の方に支えられてここまでやってこれたと話す出口さんですが、周囲の方々の支えの裏には出口さんの地道な努力がありました。

ANAあきんどと行なうライブコマース

デジタル愛媛ツアーでも人気のコンテンツの一つが、ANAの客室乗務員である黒川さんも登場するライブコマース。皆さんも気になると思います。ではANAとコラボレーションする人気ライブコマースはどのように誕生したのでしょうか。

ANAとコラボして生まれたライブコマースは、伊予銀行主催の第7回「いよぎんビジネスプランコンテスト」で株式会社クリエが準優勝したことをきっかけに、ANAの松山支店長とのつながりが生まれたのが始まり。支店長の『何か一緒にできたらいいですね。』という言葉に、出口さんはそれならば、と様々な企画書を作成して支店長に送ったそうです。

当時のANAは、オンラインツアーは実施していたものの商品販売関係のライブコマースを開催した実績はありませんでした。さらに、コロナ流行の影響で、松山支店に通常はいないはずの客室乗務員の方が常駐しているという状況。松山支店の状況を出口さんが上手く活用する方法を提案したため、客室乗務員さんが出演するライブコマースのプロジェクトが始動しました。一緒にライブ配信を行っているのは、地域創生を行う「ANAあきんど株式会社」。日本には各都道府県や市区町村に根差した空港がたくさんあります。そこで地元の観光やインバウンド向けの商品を扱うだけではなく、環境に優しい商品や、地域の自慢の逸品といった地域資源を紹介するライブコマースを実施しました。

出口さん:今でも思いついたらすぐに企画書にして送ってます。

最初は3回の企画でスタートしましたが、人気企画として今でも継続している裏側には、出口さんの地道な努力があるのではないでしょうか。

全国で通用する!地方創生ライブコマースの可能性

デジタルの普及により、店舗販売だけでなくECやSNSなどを活用したeコマースも一般的かつ多種多様になっていく現代において、ライブコマースはどういった存在なのでしょうか。

出口さん:デジタルって都会のものというイメージを持つ人が多いです。だけど、実際は地方のほうが恩恵があると思うんです。

デジタルの力を使うことで、都会との物理的な距離によるデメリットは限りなく0に近づけることができます。これまで都会に行かないと出会わないような人とも、地方で生活したまま会話することができます。都会に行かないと出来ない体験も、都会と同じコスト、同じクオリティの体験を受けることができます。

田舎が好きで移住したい、地元に帰りたい、実家の近くで子育てしたい、と地方で住みたい理由も人それぞれ。しかし考える方は多いですが、いざ実現するためには様々な課題があります。その一つが『仕事』ではないでしょうか。地方と都心部で仕事を比較すると、必要とされる職種、求人数、働ける場所、平均収入、全てが変わってきます。しかし、デジタルの力を活かせば、その違いを埋められる可能性があるのです。これは企業側にも利点があります。例えば、リモートワークもデジタルの力を活かした仕事のやり方で、居住場所に捕らわれず優秀な人材を採用することができるようになります。また地方へ移住するハードルが下がり、地方の人口増加にも繋がるでしょう。


出口さん:ライブコマースがあれば、地方にいながら都会の人との商売もできるんです。店舗も出展費も交通費もいりません。地方にいながらも、全国の人に届けることができるんです。

出口さんの言葉からは、地方も都心も区別なくライブコマースで全国とつながり、誰もが住みたいまちで活き活きと暮らす未来が想像できます。ライブコマースやデジタルは、地方が都心と肩を並べてビジネスができるまちとなるためにも、『地方だからこそ必要な道具』と言えるのではないでしょうか。

まとめ『地方だからこそライブコマース』

『まずはデジタル”愛媛”ツアーをデジタル”四国”ツアーにすることが目標!』

出口さんの言葉からは、地方創生ライブコマースのもつ可能性に対する確信を感じます。デジタル愛媛ツアーで盛り上がる愛媛県は、ライブコマースを活用することで『住み続けたいまちづくり』に繋がるモデルのまちとなるのではないでしょうか。

詳しくはこちら:地方創生ライブコマースを支援する株式会社クリエ

https://www.clear-a01.com/

愛媛県でのライブコマース事例「デジタル愛媛ツアー」

https://www.live.clear-a01.com/

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