お刺身やお寿司で人気のタコが、どのように獲れるのか知っていますか?代表的な方法としては、海中にツボをしかけておくタコつぼ漁があります。
実際のタコつぼ漁で使うタコつぼのオーナーになり、その様子をライブ配信で見られるというイベントが開催されました。ライブ配信を活かした新しい形のイベントとして企画・運営している有限会社 福山サービスセンターイトウ代表取締役社長 伊藤匡さんにお話を伺うと、「タコつぼ漁」という体験を商材に、時代に合わせた新たな価値を作り出すヒントが隠されていました。新規事業を立ち上げたい方、新規事業のヒントが欲しい方におすすめです。
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あなたもタコつぼオーナーになれる!気になるライブ内容を聞いてみた!
『瀬戸内SamPo』は、「有限会社 福山サービスセンター」イトウさんが運営する瀬戸内のミニツアー販売サイト。福山・瀬戸内の魅力が感じられる複数の体験旅行商品が用意されています。中でも、笠岡諸島・高島の「竹田水産」とタッグを組んで企画した「タコつぼオーナーライブ」というプロジェクトは人気商品です。タコ壺のオーナー権を購入し、中にタコが入っていればクール宅配便で自宅に届くという、お楽しみ要素満載の体験型サービスが売りとなっています。詳しい内容を、代表取締役社長の伊藤匡さんに聞いてみました。
海にたくさんのツボをしかけ、タコを獲る漁法であるタコつぼ漁。「タコつぼオーナーライブ」では、すべてのタコつぼに番号が振られていて、『タコつぼ3つ分のオーナー権』を購入できます。タコつぼ漁の様子はライブ配信され、自分がオーナーになった番号のツボにタコが入っていたかどうかをリアルタイムで確認し、自分のつぼにタコが入っていたら当たり!後日新鮮なタコが届きます。3つ全部が外れだったとしても、岡山県海苔品評会で最優秀(農林水産省)を受賞した竹田水産の『海苔セット』が頂けます。
このプロジェクトのいいところは、タコつぼを引き揚げて確認する様子がライブ配信で確認できること。参加者は、自分がオーナー権を所有しているタコつぼを引き揚げたり、壺の中を確認したりするところを手に汗握って視聴することができます。船に乗り、海に出てタコつぼを引き揚げる、その中にタコが入っているかは時の運、というのがタコつぼ漁の醍醐味。参加者は普通体験できないタコつぼ漁を、ライブ配信を通じて疑似体験できることが、この企画の重要なポイントなのです。
伊藤さんに話を聞いていくうちに、「タコつぼオーナーライブ」の見どころは『タコを手に入れられるか』ではなく、『タコつぼ漁をリアルタイムで体験すること』という点なのが分かりました。
2022年は全8回のライブが行われ、そのすべての回に参加しているリピーターの方もいらっしゃるそうです。この点からも、参加者がタコそのものに興味があるわけではなく、タコつぼ漁の疑似体験やタコが入っているのかというドキドキを楽しんでいる方が多いということが分かります。このように、タコつぼ漁に向かう船に同乗して、タコつぼを引き上げているかような臨場感を味わえる『タコつぼライブ』は、どのように生まれたのでしょうか?
タコつぼライブが生まれたきっかけ
さきほどご紹介したように、「タコつぼオーナーライブ」は『自分がオーナー権を購入したタコつぼにタコは入っているのだろうか?』というワクワク感が味わえるライブ配信。
私も配信のアーカイブ動画を見てみましたが、自分がオーナー権を持っているのではないのに、つぼを海から引き揚げる瞬間は『入っているの!?入っていないの!?どっち!?』と胸がドキドキしてしまいました。そしてタコが入っていた当たりのツボから、大きなタコが悠々と出てくる様子は圧巻です!くじ引きを開ける瞬間のようなドキドキ感を楽しめるタコつぼライブですが、そもそもこのライブ配信はどのように生まれたのでしょうか?
「タコつぼオーナーライブ」のメンバーは、タコつぼ漁の船内からイベントを企画した伊藤さんと、タコつぼ漁を行う竹田さん(竹田水産代表)のお二人です。特に大きなチームがあるわけではなく、基本的に二人で撮影から、視聴者との会話、配信まで行っています。
私は「タコつぼオーナーライブ」を知ったとき、商品のメインはタコだと思っていました。けれどもお話しを聞くうちに、タコつぼ漁体験のメインは『タコが入っているかどうかのワクワク感を味わえる』ことである、ということに気が付きました。タコが入っている、入っていないに関わらず、商品のメインは「体験」だったのですね。
商品はタコではなく体験だった!無形商材を販売する新規事業とは?
「タコつぼオーナーライブ」と聞くと、目的はタコを売ることだと思われる方もいらっしゃるのではないでしょうか。しかし実際は『体験を提供する』という「無形商材」が軸となり成功した事業例なのだと思います。
「無形商材・無形サービス」とは、目に見える形のない商材を提供すること。例えば、人材紹介や、広告・システムなどの情報、保険などの金融サービスなどです。店舗を構えず低コストでスタートできる場合が多いため、スタートアップ事業や起業が参入するのに向いているそうです。
しかし、無形商材を販売するのもまた難しいと言われています。その理由は、販売する自社商品が目に見えないものなので、実際に商品を使用して効果が発揮される状況や、サービスの便利さ、サポート力などを 顧客が明確な形で思い浮かべにくいからです。
伊藤さんが企画した「タコつぼオーナーライブ」も無形商材です。このような旅行商品やイベント関連の商品を販売するには、サービスが与えられるメリットをしっかりとアピールして、理解してもらう必要があります。そのためには値段設定や魅力の伝え方、集客につながる発信方法など様々な課題をお客様の視点で意識的に解決していかなくてはなりません。
お話を伺ううちに、伊藤さんの「タコつぼオーナーライブ」が人気のイベントとして成功につながったのは、『価値を大きくする』というフレームワークを発見したから。具体的に成功の秘訣を見ていきましょう。
無形商材販売を成功させるのは付加価値が鍵!
「瀬戸内SamPo」を運営する伊藤さんが企画・販売した「タコつぼオーナーライブ」は、リピーターがつくほどの人気商品となりました。ライブ配信を通じて商品を販売する『ライブコマース』の成功事業事例と言えるでしょう。
「タコつぼオーナーライブ」の配信が成功した理由は、タコつぼ漁の疑似体験のような付加価値を上手くお客様に提供できたことです。そこで、今回伺ったお話を元に「タコつぼオーナーライブ」のような無形商材販売の新規事業成功へのプロセスを、以下の3つにまとめてみました。
1.アイデアを形に!商品の中心となる軸をしっかり決める
まず、無形商材を作るときは『商品の軸をしっかり決めること』が大事。アイデアをそのまま形にするだけではなく、サービスの中心となるテーマを決めてから展開していくことが必要です。伊藤さんの場合は、「タコつぼオーナーライブ」の軸となる商品がタコそのものではなく、『タコつぼ漁を体験すること』でした。タコという商品だけではなく、ワクワクする体験への価値を感じてもらえるようにサービスを構築していったことが、成功のカギとなったのではないでしょうか。
例えばもし、
- タコつぼライブを視聴するだけ
- タコつぼオーナーになり、当たりだったらタコが送られてくるだけ
だとしたら、ここまで人気が出なかったのではないかと思います。タコつぼオーナーライブ配信は、実際にその場にいるような体験やくじ引きのような運のドキドキ感など、色々な要素がバランスよくミックスされているのが良かったのではないでしょうか。例えば、
- タコつぼオーナーになれるという珍しさ
- タコつぼ漁をライブ配信で疑似体験できるという新しさ
- 新鮮なタコが届くかもしれないというドキドキ感
などです。申し込んだ人が、画面越しでも一緒に楽しめるサービス内容にしたことが、成功の秘訣なのではないでしょうか?
2.価格設定を大事に!安くしないこと
伊藤さんは、「タコつぼオーナーライブ」成功のひとつに、価格設定がよかったと話されていました。慣れないライブ配信へ挑戦したにも関わらず、一緒に盛り上げていただける優しいお客様が集まったのは、「タコつぼオーナーライブ」を実施して嬉しい驚きだったとのこと。そして集客が成功した理由は、『商品価格を下げない』という判断をしたことだと伊藤さんは分析されています。
タコつぼオーナーになっても、タコは入っていないことの方が多く、タコ入りのツボが当たる確率は10%未満だそうです。損得勘定で考えると、他社やスーパーで買った方がいいのでは?と思ってしまいます。しかし、既存のスーパーなどで流通しているタコはカット済のものが多く、まるごと一杯はなかなか売っていません。それでは、タコまるごと一杯を購入する機会は少ないから「タコつぼオーナーライブ」が受け入れられたのでしょうか?
伊藤さんは、成功の理由を『損得勘定で考えずワクワク体験に価値を感じる方へ認知されたから』だと考えます。そしてライブを振り返り、『もし、1000円や1500円など低価格帯で出していたら、違った客層になったのではないかと思います。ギャンブル性やワクワク感を楽しめる、余裕のある方をターゲットにできたということは、発見であり収穫でした。』と、語られていました。
すでにあるサービスを販売する場合、市場価格の調査や競合他社のリサーチは欠かせません。他のサービスと差別化するためには、
- 付加価値を付ける
- 価格を変える
など、戦略を立てていくのが基本です。ここでは例として、『価格設定をする際はどんな客層をターゲットにするのがよいのか』について検討してみます。他のサービスより価格を上げて販売したとしても、商品の価値を感じてもらえなければ、本来の商品価値を理解してもらえず売るためにどんどん価格を下げるしかなくなってしまいます。
しかし、価格を下げれば競合他社と価格で勝負しなければならなくなります。その場合は、大きな組織でもない限り収益減で事業継続が困難になったり、撤退になったりするかもしれないですし、業界全体の相場が下がっていくリスクもあります。
そこで伊藤さんは、ラグジュアリー層のニーズを上手くつかむことで、「タコつぼオーナーライブ」の商品価値を下げることなく人気商品にしました。高級をイメージする似た言葉に、プレミアムという表現もありますが、ラグジュアリーとはどのような違いがあるのでしょうか?疑問を投げかけると、車の種類を例に挙げて説明してくださいました。プレミアムな車とは、高級外車など機能的価値もある高価格帯のブランド価値がある製品のこと。ラグジュアリーとは、機能性を特に重視しないスポーツカーのような車をイメージすると分かりやすいそうです。
時速何百キロまで出せるスーパーカーは、乗り心地がとてもいいわけでもないし、燃費がいいわけでもない。機能的な価値は高くはないけれど、『ラグジュアリーな車を持っていることがステータス』というように、意味的な価値を重要視する人が買う傾向にあります。確かに、普通車と比較して機能性に優れているというわけではありませんが、かっこいい・ステイタスである、という理由で高級腕時計を購入する方もいらっしゃるでしょう。
「タコつぼオーナーライブ」も、タコつぼ1個の購入価格を国産のタコ1杯相当の価格帯にしたことで、高くてもタコつぼ漁を疑似体験出来て、丸ごと1杯のタコが届く体験に価値があると思う、ラグジュアリー層寄りのお客様に受け入れられたのではないでしょうか。
お得さで勝負しようとすると、資本力のある大企業が有利です。だからこそ、価格では勝負せず、商品に付加価値をつけることへ重点を置くのが大切になります。あえて安売りしないことで、今までと違う顧客層との出会いが実現する可能性が広がりますね。
3.失敗も糧に!応援してくれるファン=コアな顧客を作る!
「タコつぼオーナーライブ」は、最初からうまくいったわけではありませんでした。郵送した際、タコの氷が全て溶けてタコが腐ってしまった、違う商品を届けてしまった、などの配送トラブルや、海上でのライブ配信のため、電波が途切れてしまったという配信トラブルも起こりました。もちろん今は改善されています。
でも、お客様は『海の上だからね!電波がんばれ!』と一緒に盛り上げてくださるような、優しい方が大半だそう。大きなクレームにつながるような失敗があってもリピートしてくれるのは、「タコつぼライブ」の強みです。お客様がこのライブを応援したい、次回の成長を楽しみにしている、という気持ちになれるような配信だということが伺えます。
他にもこんなトラブルが起こることも。下の動画では、地域のおばちゃんがライブ配信中に話しかけてきてくれました。配信はおばちゃんを巻き込み大盛り上がりになったことから、予想外の出来事もライブ配信の面白さにして、視聴者により一層楽しんでもらえるきっかけの一つとなります。
「タコつぼオーナーライブ」に申し込んで一度タコをゲットすれば満足しそうですが、このようなリピーターになってくれているのには驚きですよね。きっとタコが欲しいという気持ちがメインではなく、タコつぼ漁という体験を楽しんでいる方が多いのでしょう。
伊藤さんは、ファンになってくれた方との関係性を高めようと、ライブ配信の後に行う飲み会チケットの販売も行ったそうです。伊藤さんと竹田さんが、打ち上げの飲み会にここまで一緒に盛り上げてくれたお客様もオンラインで参加してもらうのはどうか?と思いつき、試しにZoom飲み会券を限定販売したところ、なんと完売。タコつぼライブを土台として、お客様との絆がさらに深まるきっかけとなりました。
また、偶然タコつぼライブに参加した人と街中でお会いしたこともありました。『もしかして、タコつぼライブをやっている方ですか?』と声を掛けられてびっくりしたそうです。画面越しでお顔は知っているとはいえ、会ったことのない人に声をかけるのはけっこう勇気が要りますよね。ましてや実際にお話したことのない方なら、なおさら緊張してしまいそうです。でも、声をかけて下さりお話しできたのはとても嬉しかったと、伊藤さんは話されていました。
タコつぼライブやZoom飲み会でお客様との絆を深めることで、応援してくれるお客様が増える→熱量の高いファンになる→さらに応援してくれるより濃い顧客を得られる、というサイクルが出来たのだと思います。
ライブ配信を活用した商品販売・新規事業の可能性
ライブ配信を活用した「タコつぼオーナーライブ」ですが、今後のビジョンについて聞いてみました。伊藤さんの思いは『一次産業の魅力を多くの人に伝えたい』ということ。一次産業とは、農業・酪農畜産・林業・漁業などの、加工する前段階のものです。将来的にライブ配信でそれぞれの第一次産業の魅力を伝える支援やサポートをして、そのモノの存在がいろんな人に知ってもらえる可能性を思うとワクワクしますよね。次のステップとして、漁師の竹田さんと他の漁業の配信にもチャレンジしたいと考えているそうです。
さらに漁業に限らず、農業や製造業にも手を広げてライブ配信ができるのでは、と考えていらっしゃいました。今、目の前にある牛乳やソーセージなど、自分で作らずとも手に入る社会で生きる私たちが目にする物のほとんどは完成された商品です。誰もが普通に食事しているだけでは、自分の食べるものがどのように作られているのかよく知らないままの商品も多いはず。何でも食べられる、なんでも買える時代だからこそ、どうやって育てられるかを知ること、実際にモノを持つ・用いて料理するなどの体験をすることで、大人も子供も食べ物のありがたさを知る機会となるのかもしれません。
実際に工場見学は人気ですが、見学可能エリアと外部の方が入れない立ち入り禁止区域に分かれています。ですが危ないところや衛生上入れないエリアでも、ライブ配信であれば届けられます。
伊藤さんは、新しく扱う商品にも、「タコつぼライブ」で培った無形商材の作り方が役立てるはずだとおっしゃいます。そしてモノが出来上がる過程を配信し、知的好奇心を刺激できるようなライブ体験を構成して、提供していきたいとおっしゃっていました。
また、今後の価格設定に関しても考えている最中だそうです。有料ライブ配信でお金をもらうのではなく、体験にお金を払ってもらえるような商品であることが前提。配信は無料で、体験でお金をいただくようにしたいと考えています。また、ライブコマースでよく挙げられる課題の一つとして、Amazonなどの『ネット通販で買えるものを、わざわざライブ配信で買ってもらうにはどうすれば良いのか』というものがあります。
要はどのように価値を上げるか、ということです。方法は色々ありますが、例えばライブ限定価格にしたり、他では売っていない商品を扱うなど、いまここで買う価値をアピールして行動を起こさせることが多いです。ただ中小企業が、安売りやおまけを付けるなど、価格で勝負するのは難しいと伊藤さんのお話から感じました。
ですが、ライブ配信ならば、その場の臨場感や毎回の変化、ドキドキ、ワクワク感をお客様にリアルタイムで伝えられるため、その商品の価値を上げられるのではないでしょうか。例えば、タコつぼ漁体験や、工場見学、新商品開発ミーティングなど、普段は見れない、立ち入れないところでも、ライブだからこそ行ける、できる価値を見つけていくことが大切なのですね。
まとめ
今回お話を伺って分かったことは、無形商材はサービスの軸・価格・ターゲットがそろうことで、さらに価値を高められるのだということです。タコつぼ漁の体験を、商品の値段ではなく体験そのものに価値を見出してくれる顧客に提供出来たからこそ、「タコつぼオーナーライブ」は成功したのだと考えられます。商品の価値を感じていただけたからこそ、ライブに参加した顧客の満足度は自然と上がり、濃い顧客の獲得に繋がったのではないでしょうか。
新規事業を立ち上げる方、新規事業を成功に導きたいと考えている方はこのタコつぼオーナーライブの価値づくりを参考に、販売する商品にいかに価値をつけていくかということを考えてみてはいかがでしょうか?
瀬戸内SamPoをもっと詳しく知りたい方はこちら: 瀬戸内エリアの意外な楽しさいっぱい!瀬戸内のミニツアー・体験といえば「瀬戸内SamPo」
宇野あゆみ
幼少期より、舞台・テレビ・映画と子役・声優として活動。結婚・出産を経てフリーライターとして本・舞台・子育て・演劇など多数の記事を執筆。読みやすく読者に寄り添う文章が特徴。
趣味はクラシックバレエと人間観察。新しいことにチャレンジすることが好きで、現在はヨガインストラクター認定スクールで勉強中。