インターネットでライブ配信ツールを使い、モノを売る新しい販売方法「ライブコマース」。テレビ通販とは違って、リアルタイムで販売者とやり取りをしてその場で購入できるため、人気に火がついてきています。
2022年8月に開催された『人の集まるライブコマース』をテーマにしたライブ配信に、株式会社ONPA JAPANの川井田将城さんが出演されました。川井田さんがこれまでに関わってきたライブコマースの成功体験や失敗談、企業が今後ライブコマースに参入する際に考えておくべきことなど、貴重なお話を聞くことができたので、ライター宇野がレポートをします。
目次
企業が行うライブコマースの課題と注意する点は?
ライブコマースは、現状、個人・企業を問わず参入者が増えていますが、手軽に始められる反面、なかなかうまくいかずに課題を抱えている方も多いのではないでしょうか。
YouTuberやインスタグラマーが自分のオリジナル商品を作って販売するライブコマースは、その人のファンが購入するためよく売れます。しかし、企業がライブコマースに挑戦するとなると途端に難しくなるのです。
なかなかライブ配信を見てもらえない!どうしたらいい?
『企業のライブコマースは、なかなか見てもらえない』という川井田さんのお話しからはじまった今回のライブ配信。インスタグラマーと同様、企業にもファンがいるはずですが、なぜ見てもらえないのでしょうか。人気の企業がライブコマースを行えば視聴する人は多くなりそうな気もしますが、実際は違うようです。
その原因のひとつとして、川井田さんは、テレビを観る人が減りオンデマンド視聴をするユーザーが増えたことを挙げています。リアルタイムで視聴しなくても、いつでも観ることが可能なコンテンツが増え、時間に縛られず、好きな時に視聴したい人が多くなったとのこと。
具体的な例を挙げると、平成初期には、月曜夜9時のゴールデンタイムに放送されるドラマ・いわゆる『月9』を観るために夜の街から人が激減する『月9現象』が起きました。普段なら帰る前に居酒屋へ寄って食事をする人も、月曜だけはテレビを観るために仕事後すぐ帰宅したのです。
『昨日の月9、観た?』と放送翌日に話題となることが、視聴率の高い人気ドラマのステータスでした。しかし今の時代は『月9』をリアルタイムで観るよりも、YouTubeやNetflix (ネットフリックス)などの動画視聴をする人の方が増えています。
特に今の子供や若い世代はオンデマンド視聴をする人が多いため、生放送に価値がないと思っている方もいるようです。オンデマンド視聴ができるのに、リアルタイムでテレビを観る利点がないと思っているのかもしれません。
ライブの司会者のお子さんは、『テレビ番組は、どうして途中からしか見られないの?』と聞いてきたことがあるそう。確かに、動画はすべて初めから再生されます。私の息子は小学生ですが、先日同じようなことを言っていました。彼はいつもYouTubeを見ているので、たまたまテレビで流れたCMを見て『テレビにもYouTubeみたいな広告動画が流れるんだね』と驚いていました。
つまり、テレビしかなかった時代はリアルタイムで視聴することが当たり前でしたが、オンデマンド視聴が主流となった今、リアルタイムでライブ配信を観てもらうことのハードルが高くなっているのです。
『何もせずともライブコマースを見てもらえる』という企業側の考え方がまず間違っている、と川井田さんは言います。ライブコマースは、ライブ配信中に商品を販売するので『今、この瞬間』に見てもらわなければなりません。
さらにライブコマースはスマホで見ている人が大半です。ライブ内容がつまらなければ、フリック一つでライブ配信の視聴を止められる可能性があります。ゲーム・マンガ・ニュースなど、スマホでできるエンターテイメントアプリすべてがライバルになりかねないのが、ライブコマースの現状なのです。
ライブ配信の視聴率を上げモノを売るには、リアルタイムの視聴に慣れていない方にも訴求する必要があります。”もっと見たくなるような魅力的なコンテンツ”を製作して、最終的には企業のファンになってもらうことが目標です。逆にコンテンツ作りがうまくいけば、ずっと追いかけてくれるファンを作ることが可能になるでしょう。
『企業のライブコマースを成功させるためには、片手間にやるのではなく、テレビに勝てるくらい作りこんだ質の高いコンテンツを作成することが必要です。』と語る川井田さん。
ライブ配信はスマホ一つで行うことが可能です。しかし店舗での販売同様、自社製品や取引先から仕入れたモノを販売し売り上げを得ること、つまりビジネスを成り立たせることは簡単ではないのです。『コンテンツとしてのライブコマース』をしっかり作り込んでいくことが大切です。
トラブルが起きたらどうする?生配信での失敗例
視聴者が見てくれるライブ配信にするためは、コンテンツを作り込むことのほかに、配信トラブルにも気をつけなくてはいけません。リアルタイムの配信では音声トラブルや接続不良などが起きやすいことも企業が参入しにくい理由の一つ。例えば、安定したネット環境を確保し、トラブルが起きてもしっかり対応できるようにするなど、入念な準備が必要です。
ただ、いくら準備をしていても思いがけないハプニングは起きてしまうもの。トラブルに対し、冷静な判断ができるかどうかが成功の秘訣になるのかもしれません。2000回以上、企業マーケター主催のライブコマースを行い、累計視聴人数は1万人を超えるという実績を持つ、川井田さんが遭遇した失敗例を教えていただきました。
それは『日本最高の料理をスタジオで作ろう』というライブ配信を企画したときのこと。タレントさんも集め、構成もじっくり作り面白いものができたと思っていたものの、会場施設のWi-Fiの接続環境が良くありませんでした。結果的としてせっかく盛り上がっていた話の内容をライブ配信内でほとんど届けられなかったそうです。
ライブ配信は、視聴者にきちんと届けられることが理想です。そのために、現場の配信環境をしっかりと準備しておくことが大切です。しかし、時にはリアルタイムで起こるハプニングそのものを楽しんでもらえることも、ライブ配信の面白さなのかもしれません。ウェビナビライブコマースの大切なポイントのコラムには、4つのポイントが紹介されています。
- 緊張感をシェアする
- ハプニングも楽しむ
- 聴くことでトークが盛り上がる
- 目線に気を付ける
ハプニングを避ける方法を探すのではなく、視聴者と配信者が緊張感を共有することで面白いライブ配信が生まれるのではないでしょうか。
もちろん前回のハプニングから学び改善をしていくのが大前提です。ただ、起きてしまったハプニング自体は積極的に受け入れ、そこから生まれる緊張感を活かすことで魅力的なライブ配信を作り出すことができます。
詳しくはこちらの記事をご覧ください:ライブ配信を始めた方へ!楽しいライブコマースの大切なポイント
企業のライブコマースで必要なことは?
インスタライブやYouTubeライブは多数の視聴者がいますが、商品を販売するライブコマースへと参入する企業はまだまだ少ないのが現状です。では実際に企業が参入する上で、必要なことはあるのでしょうか?
企業がライブコマースを行う場合、その商品に興味を持っている人がライブ配信に集まります。テレビショッピングのようにたくさん売れそうな気がしますが、沢山売れるだけではダメだと川井田さんは語ります。
なぜならライブコマースは元々のファン以外の新規の顧客層を取り入れる目的で行われるからです。企業のファン以外に商品を知ってもらい、ライブ配信を見てもらえない、元々のファンだけしか集められないライブコマースは、マーケティングの役割を果たせません。
ただ、ライブコマースに来た新規のお客様に配信が魅力的に映れば、商品が認知されリピーターや将来のファン・顧客になってくれる見込みがあります。そこで気に入ってもらえれば繰り返し商品を使ってくれる可能性がありますし、それまでかかった費用を回収し次の広告にまわす、という循環も出来るかもしれません。そのためには、しっかりと作りこんだコンテンツと魅力的なプロダクトが必要です。
商品や会社が広がった成功事例として考えられるのは、車のメーカーのテレビCM。全然詳しくない私でもホンダやトヨタの名前を知っている理由は、大々的にテレビのCMを打っている効果が大きいと思います。他にも「ひらかたパーク」や「グリコ」などチラシや看板広告でまず名前を知るというモノも多いのではないでしょうか。
そうやって知られていき、”商品が流行っている、ブームになっている”といえる段階になるのは、CMが頻繁に流れ、有名芸能人や人気のYouTuberがその商品を紹介しているタイミング。例えば誰もが知っているダウンタウンさんやヒカキンさんがCMで宣伝しているような商品は、”今売れているもの”であると認識する人が多いでしょう。
Amazonを使い始めるとAmazonばかり使ってしまう。毎日使う歯磨き粉や洗剤も、一度使い始めたら他に目を向けるのも手間だし、コストに大きな不満もないからまた同じものを買ってしまいがち。私も、朝のニュースは何となくいつも同じ番組を見てしまいます。一度信用したら使い続ける習性を持つ人が多いため、まず知ってもらい、信用される・気に入ってもらうことが大切なのですね。
人の集まるライブコマースとは?
川井田さんのライブの中で、企業が行うライブコマースの課題や今後の展開などをたっぷり聞けいていると、30分があっという間に感じました。今回のライブ配信から『人の集まるライブコマース』にどういった特徴があるのかをまとめたので、ポイントごとに解説します。
私が感じたポイントは3つです。
- イベント性が高く飽きない工夫
- ライブ配信を行うライバーの工夫
- 商品の魅力を伝えるための工夫
それぞれ例を挙げて詳しく説明します。
1.イベント性が高く飽きない工夫
今回のコラボしたライブ配信では用意されたギフトアイテムは3種類ありました。
- やっちまった話
- 自慢話
- 秘密の話
『投げられたアイテムによって、話すトピックが変わるのでみなさんどんどんギフトしてくださいね!』という内容でした。
これは面白い試みです。失敗談というとなかなか聞く機会がないので、私はつい『やっちまった話』のギフトが飛ばないか期待していると、早速『やっちまった話』のギフトが。そして実際に話題は川井田さんの『やっちまったエピソード』になりました。
通常のギフトも楽しいですが、自分が投げたギフトの種類で話す内容が変わるなんて、ワクワクしてしまいます。視聴者もそう思ったのか、今回のライブ配信では多くのアカウントから多数のギフトが飛び、時間がなくなってしまうほどでした。
『最後に投げられたギフトの内容は、またコラボライブ配信をやったときに話しましょう!』と、次のライブ配信を期待できるような形で終わったのもよかったです。視聴者が飽きてしまわないよう、工夫されたライブ配信であることが大事だと思います。
2.ライブ配信を行うライバーの工夫
どんなにイベント性の高いおもしろいコンテンツでも、ライブ配信者に魅力がなければ視聴者は離れていってしまいます。販売を行うライバーが、いかに熱意を持って商品を紹介しているかどうかが大切だと感じます。
ただし、どんなに熱意があっても、聞き取りづらい話し方だったり暗い表情だと、見たいと思わないはず。ライバーの表情や話の聞き取りやすさも人が集まるライブコマースでは必要なのではないでしょうか。
トップライバーや人気のあるYouTuberは『他のYouTuberには無い価値(特徴)をどうすれば視聴者に提供できるか』を常に意識していると川井田さんは分析されています。ライバーとしてライブ配信をどう盛り上げていくか、他のライブ配信とどう差別化するかなど、他のYouTuberと勝負する方法を常に考えている人は伸びる傾向にあると話されました。
例えば人気お笑いコンビ・キングコングの梶原 雄太さん。2018年10月に「カジサック」の名前でYoutubeチャンネルを開設し、チャンネル登録者数100万人を目標としました。100万人以下で目標を達成できない場合、芸人を引退すると宣言して話題になりました。川井田さんは当時、テレビで売れているお笑い芸人がYouTubeで登録者100万へフルコミットしたのはすごいことだと思っていたそうです。
カジサックさんは、視聴者に作ったコンテンツや動画をどのように楽しんでもらうか、自身が作った動画と他のYouTuberの動画を比較してより多く再生される方はどのような点が優れているか、を研究しているとインタビューで話していたそうです。
テレビに出ている時とYouTube動画では、話すスピードが違うように感じます。YouTube動画では、スピード感も大切なので、視聴者が離れてしまわないよう、少し早口で話すことを意識しているのだそうです。目標を達成するためには、なにを提供できればよいのかを常に考え続けていたからこそ、登録者100万を達成できたのではないでしょうか。
川井田さんは、一度売れた人はどのプラットフォームでも伸びると話されていました。例えばライブ配信のトップライバーは、ライブ配信を盛り上げるテクニックを持っているからです。しかしライブコマースがライブ配信と違うのは、面白い内容で視聴者を増やすだけではなく、ライブ配信内で『モノを買ってもらう』ことを理解した上で配信をする必要があることです。
YouTubeもライブコマースも一緒で、常にどのように視聴者に喜んでもらうかということを研究し考え続けることが大事です。終わりや決まった答えはなく、継続することで得られる成果があるのかもしれません。
川井田さんは『(視聴者に喜んでもらえるかを)考え続け、少しでも結果が出ることが嬉しいんです。』と話されていました。
3.商品の魅力を伝えるための工夫
せっかく良い商品を紹介しているのに、その商品の魅力がきちんと伝わらなければ購入には至りません。ライバー自身がおすすめする対象である”商品”のことをしっかりと理解して、魅力や価値を伝えられているかがカギとなります。
ライバーは、ただ商品を紹介するだけでなく、この商品を手に入れることで悩みが解決できるのか、どんなメリットがあるか、逆にデメリットは何か、などターゲット(視聴者)が具体的に考えることができるように発信することが大切です。
私が初めてライブコマースで商品を購入してみて感じたことは、『今買う理由』が明確でないと買いたいという気持ちにならないということです。
- なぜ、このライブコマースで商品を買うのか?
- 今、買うべきポイントは?
- 商品を買った後、どんなふうに活用できるか
これらのポイントが明確になると、『今買いたい!』という気持ちが沸き起こり、購入したくなります。
また、『このライブを見ている人限定の○○』と言われると、買わないと損するかもしれないと思ってしまうもの。商品購入を促す有効な一手になります。『商品の魅力+ライブ配信でしか手に入らない価値』を高めていくとさらにいいでしょう。
今後のライブコマースの可能性
ライブコマースを多くの人が活用するようになれば、今いる場所に関係なく好きなものを買えるようになります。そこで、川井田さんにライブコマースがもつ今後の可能性について聞いてみました。
川井田さんがおっしゃったのは、本当に良いものがライブコマースによって当たり前に売れる社会になること。インターネットでの検索やtwitterなどのsnsの口コミ・評判を見て、店舗や通販サイトで購入するという流れが現在の主流。それと同じくらいライブコマースで購入が、商品と出会う方法のひとつとしてもっと広がっていってほしいと願っているそうです。
さらに、ライブコマースが主流になれば、伊勢丹のような高級老舗デパートがライブコマースを導入する時代が来るのではないかと語ります。例えば、ルイヴィトンのようなハイブランドのバッグが欲しいとき、どこで買いますか?
店員さんと話しながら実物を見たいという方もいると思いますが、ハイブランドのショップは緊張してしまうからオンラインのショップで買う、と思う方もいるのではないでしょうか?私はどちらかというとECサイトを利用する派です。理由は、ショップに入って店員さんと話すと、絶対買わなくてはいけない気がしてしまい緊張するからです。
ドキドキしてしまいそうなお値段の商品でも、ライブコマースで扱うようになれば、気軽に質問できていいですね。購入者の顔や姿は見えないのだから、すっぴんでもパジャマでも買えます。
”ラグジュアリーなライブコマース”は、おもしろい発想です。そのためには、その場にいなくてもそのブランドの世界観を生かすライブ配信ができないといけません。ここでも、コンテンツ作りが重要です。
また、避暑地として人気の軽井沢にはアウトレットモールがあり、特別価格でショッピングが可能です。安さやお得を売りにするアウトレットモールですが、ハイブランドのショップも並んでいます。軽井沢アウトレットでしか買えないブランドオリジナル商品が販売されている時期もあり、それが安さ勝負ではない”アウトレットに来店してハイブランドを買う価値”、集客の原動力となっています。
その場所に行かないと買えないという希少さがあるものを、誰でも買えるようになったのでは価値が低くなってしまいます。そのため、ライブコマースでハイブランドを扱うならば、ライブ配信ならではの”買う価値”を生み出すことが重要です。川井田さんが行った、ライブ配信に価値を生み出すための実例は、購入者だけが入室可能な延長ライブという企画。
モデルが行うライブコマースで、紹介した商品を買った人はそのモデルのファンと認められ、ファンミーティング配信に入れるという形式を取りました。そこで購入者と視聴者の差別化を図ったことがあるそうです。
そういえば、私にも同じような経験がありました。あるオンラインサロン主催の無料webセミナーのライブを見ていたときのこと。第1部が終わり、休憩となりましたが、第2部のwebセミナーはサロンメンバーのみが入室できるという案内がありました。休憩中にサロンメンバーになってくれた人も入れますと言われ、つい入会してしまったことがあります。
もちろん自分の学びのために参加したので、内容も素晴らしく新しい情報も仕入れられて満足したのですが、入会しやすくなる、うまい手法だなと感心してしまいました。
メンバーシップ入会も、ライブコマースの一種。ライブ配信自体をチケット制にする、ライブ配信内で課金をするとさらにVIPルームに入れる、などのサービスや演出を取り入れることで、特別感のあるラグジュアリーな配信も広がっていくかもしれません。
まとめ
ここまで、川井田さんのライブ配信から、企業がライブコマースを行うために必要なことや人の集まるライブ配信のコツをまとめてみました。
- しっかりとコンテンツを作り見てくれた人にファンになってもらう
- ライブコマースの価値を高めていけるように研究する
- 商品の魅力をしっかり伝える
企業がライブコマースを運営するコツは、リアルタイムでライブ配信を見てもらえるようなコンテンツを作っていくこと。そのうえで、もっと人の集まるライブ配信を作るには、ライバー自身や商品の魅力をしっかりとアピールし、飽きさせない工夫をこらすことが大事です。
これからさらにライブコマースの可能性はどんどんと広がっていくのではないでしょうか。
ライブコマースの今後に注目していきたいですね!
関連コラム:知っておくべき!失敗しないライブコマースのやり方
株式会社ONPA JAPANを詳しく知る:株式会社ONPA JAPAN (onpa-japan.com)
宇野あゆみ
幼少期より、舞台・テレビ・映画と子役・声優として活動。結婚・出産を経てフリーライターとして本・舞台・子育て・演劇など多数の記事を執筆。読みやすく読者に寄り添う文章が特徴。
趣味はクラシックバレエと人間観察。新しいことにチャレンジすることが好きで、現在はヨガインストラクター認定スクールで勉強中。