商品やサービスの販売手段のひとつである『通販番組(テレビショッピング/テレビ通販)』と『ライブコマース』。
両者には「ナビゲーターとゲストが商品を実践・実食して紹介する」「時には視聴者と電話などでリアルタイムにコミュニケーションを取る」など類似点もあり、比較されがちです。それでは通販番組とライブコマースの違いとはどのようなものでしょうか?
具体例をもとに見ていきましょう。
目次
意外と知らない通販番組を解説
通販番組は、「インフォメーション(=情報)」+「コマーシャル(=広告)」を伝える「インフォマーシャル」というテレビCMの一種に分類されます。
テレビCMと言われて私たちが思い浮かべるであろう30秒程度のCMは、商品の知名度やイメージアップを狙った「ブランディング広告」。それに対し通販番組は、視聴者に購入や問い合わせなどのアクションを起こしてもらうことを目的とした「ダイレクトレスポンス広告」です。
実際にナビゲーターとゲストが使ったり、食べたり、身に着けたりしながら、商品の魅力を訴求し顧客の興味を惹きつけ、購入や資料請求に繋げます。
特に通販専門放送局によるテレビ通販番組は、視聴者からの質問にリアルタイムで答えたり、購入者と電話で話したりと、時に視聴者とコミュニケーションをとりながら進行するという、ライブコマースに似た特徴があります。
また視聴者に、映像を通じて「商品」「サービス」を紹介・販売するのはライブコマースも同じです。ではテレビ通販番組の延長がライブコマースなのでしょうか?
通販番組(テレビショッピング)とライブコマースの違いとは?
実は、通販番組とライブコマースはまったくの別物です。
それではどのような点が異なるのでしょうか?通販番組・ライブコマース双方の特徴をピックアップして比べてみました。
1. 視聴媒体・視聴ハードルの違い
通販番組の場合、視聴するのはテレビが基本です。消費者は番組を通じて商品・サービスの特徴やスペック・価格といった情報から検討し、気に入った商品を購入します。
注文や資料請求には、番組内で案内される電話番号に電話をかけ、オペレーターへ注文の意思を伝えるか、番組中に画面表示されるQRコードやURLからWebサイトへアクセスして購入するのが一般的です。
テレビ番組の場合は、深夜など「何となくチャンネルを回していてそのまま見続けた」という場合や、家事をしながら「ながら見」というパターンも少なくありません。そのため視聴ハードルは低いと言えるでしょう。
ライブコマースの場合、視聴媒体は主にスマートフォンやタブレット・パソコンになります。
視聴者は、視聴中のライブ配信アプリやサイト内にあるバナ-
から商品・サービスを直接注文するか、コメント欄等にリンクが貼ってあるECサイトから注文するのが一般的です。電話注文というケースは稀でしょう。
ライブコマースは、「見たい配信者」の配信を目掛けて消費者が視聴するため、事前にSNSなどでライブ告知などをして視聴を促すことが必要です。視聴ハードルは通販番組より高いと言えます。
2. 視聴者への商品の訴求方法・コミュニケーション有無の違い
通販番組は、1枠に時間制限があるテレビ番組による発信となるため、事前収録された番組が多いです。そのため、ナビゲーターやゲストが視聴者とコミュニケーションを取る機会は、CSを中心に放送されているテレビ通販専門放送局以外ではほとんどありません。
その代わり、実際に商品を使用している様子やおススメの使い方・食べ方・身に着け方を、視聴者にイメージさせやすい映像で訴えられるという利点があります。また放映時間が決まっているため、ライブコマースで起こる配信中の中だるみがおきにくいのが特徴です。
一方ライブコマースでは、視聴者がチャットや投げ銭などを駆使して配信者に知りたいことを伝え、配信者がそれに即座に反応する、またはさらに疑問を投げかけるなど「双方向のコミュニケーション」を重視することが最大の特徴です。
コメントはライブ配信中の画面に表示され、出演者は質問やコメントにリアルタイムで反応することが可能。消費者は質問に答えてもらうことで商品への理解が深まり、購入後の利用シーンをより具体的にイメージできます。
また、ギフティング機能やいいね機能を視聴者が使用すると、画面上にエフェクトが表示されるプラットフォームもあり、画面が賑やかになることで視聴者は盛り上がりをいっそう感じられるでしょう。
実は、筆者も「CHANCE」アプリで台湾茶を紹介したライブコマースに参加したことがあります。
「この台湾茶はどこで作られているんですか?」との筆者からの質問に、即レスで「台湾の親戚の茶畑です!」と答えてくれ、その後も「今の季節一番美味しいお茶は何ですか?」「どんな飲み方がおススメですか?」など色々質問したにも関わらず、全部の質問に答えてくれ、納得して購入が出来ました。
気になった点を全て解消してから購入できたので、専門店や百貨店で店員さんと話しながら商品を選ぶのと同じ感覚を味わえました。
このような、オンラインでありながら実店舗で一対一の接客を受けている感覚を味わえるのはライブコマースならではだと思います。
3.視聴動機の違い
通販番組では、価格や機能、使いやすさ、セット販売や割引といった付加価値など、商品軸の訴求がメインになります。
視聴者は『こんな商品が欲しい』と探すことを目的にしているというよりは、番組を見て『そういえばこういう商品が欲しかったかも』という流れで購入するパターンが多いでしょう。
ライブコマースも通販番組と同じで、商品を探すことが主な目的でない場合が多いと考えられます。
ライブコマースの場合、商品を扱うメーカーやブランド自体に関心がある、出演している人のファンであるといったケースが目立つのが特徴です。
ファッション系の配信だと、新商品・季節商品のチェックや情報収集、出演者とのコミュニケーションを目的に視聴する方も多くいらっしゃいます。自分が応援している出演者がおススメの商品を紹介することで、視聴者の『購入したい』という気持ちを後押しする点も特徴です。
4.出演者の違い
通販番組もライブコマースも、こういう人を出演させなければいけないという厳密なルールはありません。
ただ、通販番組ではメーカーの担当者やバイヤーのほか、テレビ番組で活躍するタレントやお笑い芸人などが出演するパターンが多く見られます。
ライブコマースはメーカーの担当者だけでなく、ライブコマースでの販売を得意とするプロコマーサー(ライブコマースの配信者)、ライブ配信で生計を立てるライバー(ライブ配信の配信者)のほか、SNS上で影響力を持つインフルエンサーが出演することも多々あります。
芸能人が出演することもありますが、ゲストとして出演するケースが目立ちます。
通販番組がタレントを起用する理由
テレビ業界で影響力が強いのはやはりタレントや芸人です。
もともと通販番組にタレントが起用されるケースは珍しくありませんでしたが、近年では知名度の高いタレントや人気芸能人が出演するケースも多く見られるようになりました。
通販番組では、決められた時間内に商品の魅力を伝える力と、番組自体を盛り上げる力が必要です。バラエティ番組などで活躍するタレントやお笑い芸人の方は現場慣れしていて、撮影をスムーズに進行させることや場を盛り上げることに長けています。
通販番組には出演者同士の掛け合いによるバラエティ的な要素がある点も、タレントが向いている理由につながるでしょう。通販番組でよくある『驚くリアクション』『欲しがるリアクション』などが多少オーバーになっても、違和感が生じにくい点もメリットです。
また、ライブコマースが20〜30代など若い世代の利用が目立つのに対し、通販番組の視聴者は40〜60代くらいが中心です。知名度の低い方よりも、ある程度知名度のあるタレントの方が信頼感や安心感を与えやすいのではと考えられます。
ライブコマースはタレントではなくライバーを起用する理由
1.親しみやすさがあり、生配信にも慣れている
通販番組に出演するのと、ライブコマースに出演するのでは求められるスキルが異なります。
ライブコマースで求められるのはタレント性の高い人材というよりも、実店舗の販売員や店長、セレクトショップのオーナーといった身近で親しみやすい人材です。
固定ファンを多く持つライバーも多く、親しみのあるキャラクターを売りにしているライバーも多数。世間へ影響力のあるインフルエンサーをキャスティングするケースもありますが、ライブコマースに関してはライブ慣れしているライバーの方が適していると言えます。
ライバーの場合、生配信でのトークやカメラに慣れている・コメント機能を通じた視聴者とのコミュニケーションスキルに長けているといった強みがあります。コマーサーを探す際には、ライバーも候補に入れてみるとよいでしょう。
2.トーク力だけでなく、アドリブ力も大事
視聴者を楽しませながら商品の魅力を発信するには『トーク力』が必須です。
しかし、単にトークを盛り上げるだけでなく、同時に販売も行うというスキルも求められます。また、ライブコマースをスムーズに進行し盛り上がるには『アドリブ力』も欠かせません。人気ライバーであれば、トーク力・アドリブ力を持った人材が多く見られます。
ライブコマースの場合、大まかな全体の流れや伝えたい内容は事前に決めていても、細かくセリフや行動を台本にしておくことは推奨されていません。ライブコマースは『視聴者と一緒に番組をつくる』ことが前提。
内容をガチガチに固めてしまうと台本通りに進行することに気を取られ、視聴者とのコミュニケーションが不十分になる可能性があります。
出演者は視聴者の反応やコメントの内容から、ライブ全体の様子や視聴者感情を察し、時にはライブの進行を変更したり、商品の紹介方法を変えたりといった、場に合わせた柔軟な対応が必要です。
編集ができないライブ配信だからこそ、予想外の展開になったり、トラブルが起きたりすることも考えられます。そういった際、いかに迅速かつ的確に対応できるかは、出演者の腕の見せ所と言えるでしょう。
3.商品・サービスへの深い知識や愛情も必須
視聴者と双方向のコミュニケーションが取れるのは、ライブコマースの醍醐味。
視聴者からの質問やコメントにリアルタイムに答えつつ、商品・サービスを販売できるのは、ライブコマースならではの特性です。
そのため、紹介する商品・サービスへの深い知識や業界知識を事前に身につけておくことは必須。
視聴者からの質問にスムーズに答えていくことで、商品やコマーサー、ライブ自体の信頼も増していきます。
何より『その商品・サービスが好き』という出演者の感情は画面越しにも伝わるものです。実際にそのメーカーの商品を愛用しているなど、紹介する商品・サービスと出演者の相性も重要です。
ライバーのなかにはコスメやファッション、グルメ・調理など自分の得意なジャンルに特化して活躍する人も多数。そういったライバーの個性や知識を活かすことで、より内容の濃いライブコマースを実現できます。
通販番組とライブコマース、それぞれ向いているカテゴリとは?
1.通販番組と相性のよいカテゴリ
通販番組では家電や調理器具、生活用品、ファッション、ジュエリー、寝具、コスメ・化粧品、健康食品、ダイエット用品、グルメ・食料品など、取り扱うカテゴリは非常に多彩です。
パッケージツアーや保険商品など、無形の商品を扱うこともあります。特定のカテゴリにとらわれず紹介できる点は、映像編集のできる通販番組の強みと言えるでしょう。
価格帯も、数千円〜数万円程度の商品から数十万円する高価格帯のものまで幅広いのも特徴。セット販売をする場合や、1点買うともう1点プレゼントなどのおまけ付き、家電の下取り付きなど、さまざまな付加価値を付けて販売しているケースも多くみられます。
2.ライブコマースと相性のよいカテゴリ
ライブコマースもカテゴリを問わず紹介できますが、見栄えのいい商品やその場ですぐに変化・効果がわかる商品、トレンドの変化が速い商品などが相性がよいとされています。
一方で、ダイエット食品・健康器具、サプリメントなど、効果が出るのに一定の時間がかかる商品は不向きであると言われています。
特にライブコマースの実例が充実しているのは、アパレル・ファッションやコスメ・化粧品、グルメなどのカテゴリです。商品同士を組み合わせたセット販売もしやすく、1人あたりの単価アップも期待できます。
また、開発に関するストーリーや背景がある商品は視聴者の共感を呼びやすく、ライブコマースには特におすすめです。
<アパレル・ファッション>
生地の質感や着心地、サイズ感、フォルムなど、ECサイトの写真や動画では分かりにくい点も、ライブ配信であれば伝わりやすくなります。実際に商品を着用したモデルを出演させ、動いてもらうことで、着用イメージがより具体化しやすくなるでしょう。季節やシーン、体型などに応じたコーディネート提案がしやすい点もメリットです。
視聴者は気になる点などをコメント機能から気軽に質問できるので、安心して買い物を楽しめます。実店舗で販売員に接客してもらえるような感覚が味わえるでしょう。大手アパレルメーカーを中心に、ライブコマースを導入する企業も増えてきています。
<化粧品・コスメ>
化粧品・コスメの商品もライブコマースでよく見られるカテゴリーです。
メイク用品なら『この商品を使うと印象がこう変わる』といった変化が見せやすく、おすすめしやすい点がメリット。
編集ができないライブ配信だからこそ、商品への信頼感も与えやすいでしょう。
<グルメ・食品>
出演者が実際に試食・試飲したリアルな感想を、生の表情やリアクションで伝えられる点が強みです。
写真などでは伝わりにくい味や風味、食感などが伝わりやすくなります。
グルメ・食品関連の商品は、画面越しの見栄えもいい点もポイントです。調理方法やアレンジレシピを紹介するなど、視聴者の興味を引くためのアプローチの方法もさまざま。手頃な価格帯の商品も多いため、購入しやすいカテゴリでもあります。
通販番組とライブコマース違いのまとめ
ライブコマースは決して通信販売の延長ではありません。
通販番組とライブコマースには、双方向のコミュニケーションが取れるかどうかをはじめ、視聴媒体や視聴動機などさまざまな違いがあります。
ライブコマースをこれから始めようと考えている方は、ぜひこれらの違いを参考にしてみてください。